事業展開等リスキリング支援コース創設を受けて実施したい人材育成

岸田内閣が、5年で1兆円という大規模なリスキリング支援を発表しました。これは、デジタル人材を育成する絶好のチャンスです。中小企業にとって、Webブランディングやコンテンツ運用といった、成果に結びつく施策を実施できる人材育成は重要な課題です。今回は、リスキリングが求められる理由やリスキリング支援コースの概要に加えて、助成金を利用して実施したい研修をご案内します。

岸田首相の所信表明「 5 年で 1 兆円」のリスキリング支援

2022年10月の国会で岸田首相が行った所信表明演説では、今後の社会に関する多くのことが発表されました。その中でも中小企業にとって重要なのは、5年で1兆円という個人へのリスキリング支援です。その規模に注目が集まりがちですが、この時期に人材育成への投資を決めたことは、個人のスキルアップだけではなく、経営者も支援することにつながります。

スキルアップした個人が自社の事業に貢献し、それによって事業収益が改善、生産性向上による賃上げへとつなげたいという政府の意図でしょう。または、転職などによってデジタルなど成長市場へ人材を投入したいという狙いも見て取れます。

所信表明演説の中で掲げられた「(転職による)労働移動の円滑化」やその先にある「構造的な賃上げ」だけではなく、「成長のための投資と改革」で触れられている「科学技術・イノベーション、スタートアップ、脱炭素、デジタル化を重視」という課題にもつながってくることです。個人のリスキリング支援は、社会にも好影響を与えると期待されているのでしょう。

そもそも「リスキリング」とは?

岸田首相の所信表明演説によって、にわかに注目を集めることになったリスキリングは、学び直しと訳されることが多いようです。しかし、それでは本質を見誤ってしまう可能性がありますので、もう少し詳しく理解しておきましょう。

リスキリングは英語で「Reskilling」、学び直しや再教育という意味ですが、この時代のリスキリングには前提があります。単なる学び直しやスキルアップということではなく、これからの時代に欠かせない知識やスキルの習得という点が重要です。それは、デジタルの利活用にほかなりません。

リスキリングは、デジタルを利活用し、新しい価値を生み出せる人材になるための学び直しやスキルアップといっていいでしょう。この前提を踏まえて、人材開発支援助成金に新たに設けられた「事業展開等リスキリング支援コース」(以下、リスキリング支援コース)の概要を見てみましょう。

リスキリング支援コース利用の3つのポイント

リスキリング支援コースは、人材育成にかかる費用を支援するコースですが、利用に際する条件が次のように示されています。

  • 既存事業にとらわれず、新規事業の立ち上げなどの「事業展開」に伴う人材育成
  • 業務の効率化や脱炭素化などに取り組むため、「デジタル化」「グリーン化」に対応した人材の育成

括弧で示した部分が重要です。より正確にお伝えすると、ポイントは次の3つになります。

  • 事業展開
  • デジタル・DX化
  • グリーン・カーボンニュートラル化

ここに示した3つのうち、いずれかに該当することが助成金利用の条件です。ここでは、事業展開とデジタル・DX化について見てみましょう。

事業展開とは

事業展開とは、新製品やサービスを開発することなどにより、新たな分野に進出することだと書かれています。では、今まで挑戦したことのない分野でなければならないのかというと、そうではありません。既存事業の中でも、製品の製造方法やサービスの提供方法を変更することも認められています。事業や業種の転換も、事業展開の対象です。

具体的には、次の4つが事例として挙げられています。

  • 新商品や新サービスの開発、製造、提供または販売を開始する
  • 日本料理店が、フランス料理店を新たに開業する
  • 繊維業を営む事業主が、医療機器の製造など、医療分野の事業を新たに開始する
  • 料理教室を経営していたが、オンラインサービスを新たに開始する

日本料理店がフランス料理店を新たに開業するのは、新しいサービスの提供です。従来の繊維業を活かして医療分野の事業を開始するのは、新しい分野への進出になります。料理教室をオンラインで行うのは、サービスの提供法の変更に該当するといえるでしょう。

新製品や新しいサービスを開発する前に、どこにどのようなニーズがあるのかを調査しなければなりません。また、どのように販売または提供するかについても検討が必要です。今まで取り組んでいないのであれば、デジタル広告を視野に入れたほうがいいかもしれません。中小企業の場合、人材育成する必要があるのは、主にこの点だといえるでしょう。

デジタル・DX化とは

デジタル・DX化とは、デジタル技術を活用して、自社の優位性を確立することだとされています。その方策として挙げられているのが、業務効率化を図ることや、顧客や社会のニーズに基づいた製品やサービス、ビジネスモデルの変革です。

具体例として、次のようなものが挙げられています。

  • ITツールの活用や電子契約システムを導入し、社内のペーパーレス化を進めた
  • アプリを開発し、顧客が待ち時間を見えるようにした
  • 顔認証やQRコードなどによるチェックインサービスを導入し手続きを簡略化した

社内のペーパーレス化促進は、業務効率化の一例です。顧客にとっての利便性を向上させるため、つまり自社の優位性を向上させるための(待ち時間を見えるようにした)アプリ開発は、サービスの変革といえます。チェックインサービスの簡略化も同様でしょう。

デジタル・DX化の場合、学習できるジャンルは広いといえます。ポイントは、自社の優位性を確立することですので、ITリテラシーの向上やアプリケーションソフトの操作方法、ホームページ制作、Webマーケティング、アプリ開発など、多岐に渡ります。

支給対象訓練と助成率・助成額について

リスキリング支援コースでは、人材育成のための研修費用および期間中の賃金が支給されます。助成率や助成額の前に、支給対象となる研修の条件を確認しましょう。

  • 研修時間10時間以上
  • OFF-JT(事業外訓練)であること
  • 職務に関連する研修で、次のうちのどちらかに該当すること
    ①事業展開をするにあたり、新たな分野で必要となる専門的な知識や技能を習得させる研修
    ②事業展開をしない場合、企業内のデジタル・DX化またはグリーン・カーボンニュートラル化を進めるために必要な知識や技能を習得させる研修

10時間以上の研修で、OJT(事業内訓練)ではないことが大前提です。それに加えて、事業展開をする、しないで支援対象となる研修が変わってくる点に注意しましょう。助成率と助成額は、次のとおりです。

・助成率・助成限度額

10h以上100h未満100h以上200h未満200h以上
中小企業75%960円1億円
大企業60%480円1億円

・受講者1人あたりの経費助成限度額

10h以上100h未満100h以上200h未満200h以上
中小企業30万円40万円50万円
大企業20万円25万円30万円

受講者1人あたりの経費助成限度額は、研修時間によって3段階にわかれています。研修時間が長くなるほど助成限度額も増えます。中小企業の経費助成率は75%ですので、試算して確認することをおすすめします。

1人あたりの助成額=研修費用×0.75(上限額あり)+研修時間×960円

助成金の利用を希望する場合、研修開始日から1カ月前までに労働局に申請しておかなければなりません。事業展開は研修開始日を起点として、3年以内に実施、または6ヵ月以内に実施したものである必要があります。

教育研修事業のご紹介

弊社には、教育研修事業を取り扱うグループ会社があります。株式会社アイクラウドです。同社は、デジタル人材の育成に特化した企業研修が得意です。今回新設されたリスキリング支援コースにふさわしい研修や講座を数多くご用意しています。

Web制作やWebマーケティング、プログラミングなど、さまざまな研修や講座があります。特に、デジタル・DX化については、実績が豊富です。どのような研修を従業員に受講させるか検討されている場合には、弊社がコーディネートさせていただきますので、お声がけください。

株式会社アイクラウド 事業展開等リスキリング支援コース

まとめ

今回のリスキリング支援コース創設は、中小企業にとって人材育成の大きなチャンスです。助成率が高く、経費に加えて賃金も支援されまます。デジタル技術を何かしら取り入れたいと考えていた中小企業経営者には、まさに渡りに船だといえるでしょう。

オンライン販売を開始したくても任せられる人材がいなかった、自社ホームページを制作したものの活用できていなかった、SNSなどを活用して自社製品やサービスの認知度を上げたい、ファンを増やしたいと考えていたなどの場合、リスキリング支援コースはこれ以上ないほどの好機です。

デジタル技術を導入する目的は、成果を上げるという1点にあります。そして、デジタル技術の活用は、成果を生み出します。2023年を素晴らしい年にするためにも、ぜひご決断ください。

この記事を書いた人

吉野 太佳子代表取締役|中小企業診断士 , MBA , 上級ウェブ解析士 , Google アナリティクス認定資格

Webブランディングの専門家として、中小企業・小規模事業者さまをご支援させていただきます。

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