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カスタマーエクスペリエンスとは?
カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience)とは、「ある商品やサービスの利用をとおして顧客がする体験」です。顧客体験ともいわれ、CXと略されることもあります。ユーザーエクスペリエンス(User Experience)との違いから、カスタマーエクスペリエンスを理解してみましょう。
ユーザーエクスペリエンスは、ユーザー体験のことでUXと略されることがあります。ユーザーエクスペリエンスとカスタマーエクスペリエンスとの間には、分かりやすい違いがあります。それは、経験の範囲です。さまざまな表現がありますが、次のように表すことができるといえます。
■ユーザーエクスペリエンスとカスタマーエクスペリエンスの違い
・ユーザーエクスペリエンス:商品やサービスと顧客の接点(個別で断片的)・カスタマーエクスペリエンス:商品やサービスを購入する前から購入時、購入後までの接点(全体で包括的)
具体的な例を挙げて説明しましょう。
例えば、メーカーの場合です。製品AのユーザーA社(お客様)とユーザーB社はそれぞれ、営業Aさんと営業Bさんから購入しています。営業Aさんは、説明がわかりやすい上に問い合わせへの対応も早く、購入後のお伺いも定期的にあります。
その一方で営業Bさんは、愛嬌はあるものの大切な説明や書類が後回しになることもあり、購入後のお伺いは不定期です。この場合、A社とB社とでは、このメーカーに対するお客様からの評価が大きく異なることは想像に難くありません。もし別のメーカーが類似する製品aを製造販売していたしたら、どうでしょうか。
次に、エステなどサービス業の場合を取り上げてみましょう。ネット予約の際に見た店内やスタッフの写真は清潔感にあふれ、説明も丁寧で、サービスへの期待が膨らんでいたとします。しかし、来店してみると、店内が予想以上に狭かったり、慌ただしいからか待ち時間が長かったり、期待どおりの接客ではなかったり、尋ねてもいないケア用品を勧められたりしたらどうでしょう。お客様はきっとがっかりされ、次の来店はもうないかもしれません。
ユーザーエクスペリエンスという視点では、先のメーカーの場合、ユーザーA社に対しては良質な体験を提供できています。エステの場合、ネット予約までは成功しているといえます。しかし、カスタマーエクスペリエンスという視点では、どちらにも課題があるということになります。
カスタマーエクスペリエンスの重要性とメリット
カスタマーエクスペリエンス(以下、CX)の重要性は、増しています。経営者応援コラムの中でも何度か触れているように、現代はモノやサービスに溢れ「ないものはない」といわれているような状況です。スマホなどデジタルデバイスの普及により、顧客が別の商品を探し出すのはますます簡単になっています。
そのような中で自社の優良顧客になってもらうために必要なのが、CXという考え方です。どんなに商品やサービスが優れたものであっても、そこだけで接点を持ち続けることには限界があることを意味します。顧客が非物質的な価値にも重点を置いているからです。
商品やサービスを初めて知るところから、比較検討の上で購入を決定し、実際に購入をする。購入して使用し、何かあれば購入後にも相談できるような体制があることを顧客は望んでいるともいえます。この体験全体をとおして、その流れがスムーズで一貫性があり、自分の好みが反映されていることを顧客は好むということです。
つまり、CXを向上させることには、次のようなメリットがあるといえます。
■カスタマーエクスペリエンスに取り組む5つのメリット
・新規顧客やリピーターの獲得・既存顧客との関係強化
・顧客による口コミやSNSなどでの宣伝
・ブランドイメージの向上
・事業安定化
ここで忘れてはならないことがひとつあります。CXを向上させる、すなわち顧客体験をデザインするときに欠かせないのは、企業側ではなく顧客側の視点です。顧客がどのように感じるかを丁寧に追っていく必要があります。
中小企業だからこその強みを活かしてカスタマーエクスペリエンス向上を
CXの向上に取り組む際、中小企業だからこそ活かせる強みがあります。「組織が小さく、まとまりやすい」「意思統一が図りやすい」「機動力が高い」などが、中小企業ならではの強みです。この点を存分に活かしましょう。
大企業では企画部門と営業部門、カスタマーサポートなどの機能がそれぞれ独立しているケースが多く、そこには大企業特有の大規模な戦略や高度な分析があるかもしれません。しかし、中小企業が同じような環境をめざすことは現実的ではありません。
その結果、オンラインとオフラインの一貫性が取れていないということも起こりがちです。ユーザーは、会社のオンライン(ウェブサイト)とオフライン(店舗や事務所、営業担当者)を行ったり来たりします。ユーザーにとっては、どちらも同じひとつの会社ですから、オンラインとオフラインで情報や対応が違っていてはいけません。
ユーザーが不満を感じるのは、「オンラインで問い合わせをしたのに、なかなか返事が返ってこない」「オンラインの情報や画像を見て購入を決めたのに、実物が何だか違う」などの点です。オンラインとオフラインとの齟齬といえます。
企業からすると「ハードルが高い」「できる人がいない」「人手不足だから」などの理由が挙がってきますが、それはユーザーにはまったく関係ありません。オンラインとオフラインとの一貫性が取れていないことは、ユーザー(お客様)にとって困惑や不信のもとです。逆にいえば、その連携が上手にとれていることは、ユーザーにとって大きな魅力になります。
組織がまとまりやすいという特徴を持つ中小企業なら、このような事態に迅速に対応することができます。全社的な取り組みとして一丸になることができます。この機動力と全社総出で対応できることこそ、中小企業がやるべきことです。
カスタマーエクスペリエンスを向上させる方法
では実際に、どのようにしてCXを向上させるのかについて見て行きましょう。用意するものは以下の3つです。この3つで顧客がどのように自社商品やサービスを体験するか想定します。その上で、CX向上のためにはどのようにしたらいいかを考えるという流れです。
■カスタマーエクスペリエンスを向上させるための3ステップ
①ペルソナ設定②カスタマージャーニーマップ作成
③課題の発見と改善策の立案
・ペルソナ設定
ペルソナとは、自社の商品やサービスに興味を持ちそうな架空の人物像のことです。これをペルソナと呼びます。ペルソナはぼんやりとしたものではなく、できる限り具体的にすることをおすすめします。
例えば、同じ40代の男性や30代の女性でも、結婚しているのか、子どもがいるのか、どこに住み、どのような仕事をしているのか、いつも使っているデジタルデバイスは何かなどによって、取る行動は変わってくると考えるのが自然です。
ペルソナ設定では、属性とパーソナリティ、ライフスタイル、自社商品やサービスとの接点を考えます。実在の人物を思い浮かべながらでもいいですし、こういう人が興味を持ちそうだと想像していっても構いません。3人以上を設定すると複雑になりますので、1~2名にしておきましょう。
・カスタマージャーニーマップ作成
次に、顧客がどのように自社商品やサービスを見つけ、比較検討を経て購入に至るかに加えて、購入後の使用までの流れを追います。この一連の行動を旅行に見立てて、カスタマージャーニーと呼びます。そのカスタマージャーニーを見える化したものがカスタマージャーニーマップです。
カスタマージャーニーマップには、オンラインとオフラインの両方を入れてください。顧客はオンラインとオフラインとを行ったり来たりします。それぞれのフェーズ(認知、比較検討、決定、購入、利用)でどのような動きをするか、顧客の立場になって考えることが重要です。
・課題の発見と改善策の立案
ペルソナとカスタマージャーニーマップが完成したら、マップに沿ってペルソナがどのような行動をするか考えてみましょう。重要なのは、「このペルソナは、どのように考えどのように行動するか」と考えていくことです。企業目線を捨て、顧客目線を貫きましょう。
そのようにひとつひとつのフェーズを丁寧に追っていくことで、どこに取り組むべき課題があるのかが見えてきます。課題が見えて初めて、どのような対策を講じるべきか考え始めることが可能です。課題がどこにあるか、本当の課題は何かを把握してから講じる対策には、必ず学びがあります。
非物質的価値の理解もカスタマーエクスペリエンス向上のカギ
中小企業のCX向上のカギは、あと2つあります。それは、非物質的価値を理解することと情報共有です。商品はもちろんのこと、非物質的価値も顧客は重視しています。
非物質的価値を理解するために、ここで一旦、前述のエステサロンの話に戻ってみましょう。ホームケア用品や消耗品は販売されているでしょうが、主軸はリラクゼーションやフェイシャル、瘦身など、非物質的な価値といえます。
エステサロンのようなサービス業では、施術者の技術や知識、接客はもちろんのこと、サービスを提供する場所である店舗も大切なサービスの一環です。外観や内装に清潔感があるか、施術機器、完全個室か、アロマなど香りを施しているか、リラックスできるような音楽が流れているかなども大切な要素といえます。
施術の後はコミュニケーションを取り、気になった点や満足した点をさりげなく聞き出すことも重要です。その情報をスタッフ(オフライン)と共有し、次回のおすすめなどに活用します。写真や感想をいただけたら、ウェブサイトやSNS(オンライン)でシェア拡散することも考えましょう。
エステの場合は特に、施術という五感で感じる感覚的な価値に加えて、親しみやすさや愛着などのような点に、ほかのサロンよりも高い価値を見いだすという心理的価値もあります。
メーカーの例では、同じ製品Aに関して、オフラインとオンラインのどこから接点を持っても同じ対応であることが必要です。営業担当がAさんであってもBさんであっても、またウェブサイトであっても、どこを切っても同じだということがお客様にとっては重要だといえます。
顧客の購入履歴や納品日、使用環境、問い合わせ、不具合・故障などのクレームは、関係者全員が見られるように情報共有しておきましょう。オンラインで共有ができれば、誰がいつどこで対応しても一貫性と一定の水準を保つことができます。
この点を理解し、引き続き利用したいと思わせることができれば、その顧客との関係性は堅固なものになっていくでしょう。
まとめ
中小企業こそ、今すぐカスタマーエクスペリエンス向上に取り組むべきというのが弊社の考えです。その理由は、中小企業ならではの「意思統一のしやすさ」「機動力の高さ」に加えて「意思決定の速さ」という強みを存分に活かすことができるからだといえます。
コロナ禍を踏まえ、政府によって数々の補助金や支援施策が今も検討されています。そしてそれにより外部の力を借りることも選択肢のひとつです。しかし、自社にとっての生命線である顧客対応は、やはり自社でやるべきだと考えます。
外注してみたものの思うように成果が出ないことや、コロナ禍により自社でウェブ運用に向き合うことの必要性を感じて、内製化のご相談を受ける機会が増えています。オフラインとオンラインの連携、そして両者をつなぐ情報共有が、中小企業のCX向上を左右するカギです。
もうすぐ2022年を迎えようとしています。将来を見据えた決断につながれば幸いです。