ビジネスチャットという業務効率化ツールをご存じでしょうか。代表的なものに、SlackやMicrosoft Teamsなどがあります。今回は中小企業の業務効率化によくある課題とビジネスチャットにできること、導入のメリットに加えて、おすすめのビジネスチャット4選と無料版を利用する上での注意点をご紹介します。
2024年の中小企業の経営課題とは?
以前のコラムで、2024年版 中小企業白書のまとめをお伝えしました。中小企業白書の中では、中小企業の現状と経営課題として、原材料費の高騰や人材難(人手不足)を挙げています。経営者応援コラムでも度々取り上げていますが、人手不足は深刻で、年々減少し続ける生産年齢人口の中で少ないパイを取り合っている格好です。
そのような状況において、中小企業に求められているのは、少ない人数でも業務を回せるようになることだといえます。それが、業務効率化であり生産性向上です。この2つは似て非なるものでして、業務プロセスの見直しや無駄の排除といった業務改善を通して業務効率化が実現され、結果として生産性が向上するという流れになっています。
つまり、原材料費の高騰や人手不足といった現在の難局に取り組むには、やはり自ら新しいことに挑戦したり、取り組んたりするという経営者の積極的な姿勢(自己変革)が不可欠です。
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中小企業が業務効率化に取り組むきっかけとよくある課題
ここでは、いくつかの調査から、中小企業が業務効率化に取り組むようになったきっかけとよくある課題を見てみましょう。
目次
業務見直しに取り組むきっかけ
少し古いのですが、コロナ禍前となる2018年の中小企業白書に、業務見直しを行ったきっかけが公開されています。
- 人手不足対応(46.5%)
- 業務に非効率や無駄を感じた(41.0%)
- 働き方改革への取り組み(31.4%)
- 多様な人材活用(14.7%)
- 業績の悪化(12.3%)
ここに挙げたきっかけは、経営課題として認識されている項目だということを意味します。前回取り上げた2024年版中小企業白書でも、中小企業の課題として以下のことが指摘されていました。
- 人手不足対応と持続的な賃上げ
- 生産性向上に向けた省力化投資
- 付加価値の向上と取引適正化・価格転嫁
- 良質な雇用の創出と働き方改革
- GX(グリーン・トランスフォーメーション)
- サーキュラーエコノミー(循環経済)
- DX(デジタル・トランスフォーメーション)
DXやGX、循環経済には時代の変化や社会の要請などを感じますが、それ以外の部分では、中小企業の経営課題が本質的には同じだとわかります。
業務見直しを実施する際の課題
では、何が業務見直しを妨げる要因になっているかを見てみましょう。2018年の中小企業白書では、次のように報告されています。
- 業務に追われ、業務見直しの時間が取れない(50.6%)
- 取組を主導できる人材が社内にいない(24.1%)
- 取組の目的や目標が上手く設定できない(17.5%)
日本政策金融公庫が2024年5月末に発表した調査報告によると、デジタル化の課題として挙げられているのは次のようなものです。業務効率化にデジタル化は欠かせませんので、デジタル化に関する調査を取り上げています。
- 導入コストの負担が大きい(56.2%)
- 費用対効果を測ることが難しい(50.0%)
- 維持コストの負担が大きい(40.2%)
目の前の業務に追われて時間が取れないことや業務改善を任せられる人材の不在、それでもやろうとすると上手くいかないといった現実、費用負担、費用対効果などが業務見直しを妨げているといえるでしょう。
業務見直しの効果
さまざまな課題がありながらも、それを乗り越えた先に待っているのが効果です。
2018年の中小企業白書では、業務見直しに取り組んだ結果として、人手不足や生産性向上に対する効果を実感できたかについて、多くの中小企業が「効果を得られた」と回答しています。「期待した効果が得られている」「ある程度の効果は得られている」という回答は製造業や小売業、サービス業など、業界を問わず割合が高く、約50~70%に上ります。
デジタルツールの導入による具体的な成果が挙げられていますので、日本政策金融公庫の調査を見てみましょう。
- 業務の効率化
- 業務の標準化
- 社内コミュニケーションの促進
- 意思決定の迅速化
- 既存事業・サービスの品質向上
なお、業務全体へのプラスの影響について、「期待以上の成果があがっている(4.4%)」「期待どおりの成果があがっている(50.0%)」という回答で半数を超えています。
業務効率化や生産性向上に役立つビジネスチャットとは?
「業務効率化に取り組む時間がない」「主導する人材がいない」「費用もない」という中小企業経営者の皆さんに、導入の負担が少ないにもかかわらず、業務効率化を期待できる施策としてご紹介したいのがビジネスチャットです。
ビジネスチャットは、LINEのように主に個人間で使うチャットと異なり、ビジネスでの効率的なコミュニケーションを目的としたオンラインツールを指します。数多くの製品がひしめき合う中で、ビジネスチャットの機能と導入のメリット、デメリットをご紹介しましょう。
ビジネスチャットの特徴
中小企業では、メールを基本的な連絡手段としていることが多いかもしれません。ビジネスチャットでは、次のようなことができます。
- リアルタイムでのコミュニケーション
- 情報共有の速さ
- オンラインストレージとしての活用
- グルーピング機能
- ビデオや音声通話機能
- シームレスなコミュニケーション
ビジネスチャットの魅力のひとつは、コミュニケーションのテンポの良さです。ビジネスチャットを導入する効果が特に高いのは、社内コミュニケーションをメールに頼っている企業だといえます。
メールとは異なり、ビジネスチャットは、テーマに沿ったやりとりをひとつの画面の中で続けられるスレッド形式です。メールよりも過去の発言や共有したファイル、画像などを共有したり探したりするのが非常に簡単です。オンラインストレージのように利用できます。
ひとつのトピックやプロジェクトといった枠組みを設けてグループを作成し、メンバーを追加削除するのもクリックやタップ、文字入力だけで完結するため、難しい設定は必要ありません。
ビデオ通話や音声通話機能も標準的に備わっているため、時間や場所を選ぶことなく電話やビデオ通話が可能です。PCだけではなくタブレットやスマートフォンといったデバイスからアクセスできるため、外出先や出張先でもつねに最新の情報を確認できます。
中小企業におすすめのビジネスチャット4選
ビジネスチャットにできることや導入のメリット、デメリットを見たところで、ビジネスチャット未経験または導入を検討中の中小企業におすすめの製品を4つご紹介します。それぞれに特徴がありますので、「機能」「使いやすさ」「導入しやすさ」「セキュリティ」「サポート」「費用」といった側面から比較してみましょう。
馴染みがあり学習コストの少ない「LINE WORKS」
- 画面構成や操作方法がLINEとよく似ていて使いやすい
- LINEにはない「メンバー管理」や「タスク」「カレンダー」「メール連携」「ビデオ・音声通話」といったビジネス向け機能が充実
- 企業規模や業界を問わず利用実績がある
- LINEとは別のデータセンターとセキュリティ体制
- Web(FAQ)やチャット、動画、電話など充実したサポート
- フリープラン(0円)スタンダードプラン(月額450円)アドバンストプラン(月額800円)
- 30日間の無料トライアルあり
国内の月間アクティブユーザー数(登録のみではなく実際に使っているユーザー数)9500万人を誇るLINEと唯一連携できるアプリです。LINEの個人ユーザーとLINE WORKSをつなげることができるため、個人をターゲットとするビジネスの場合、連絡の取りやすさは抜群だといえます。
LINE WORKS公式サイト
https://line-works.com
中小企業の導入実績が多い「Chatwork」
- 見やすい画面構成と直感的な操作で使いこなしやすい
- 「メッセージの予約送信」や「メッセージのブックマーク」「自分宛メッセージの抽出」「グループ内のメンバーのタスク進捗管理」などユニークな機能がある
- 中小企業を中心に60万社以上の導入実績
- 大企業や官公庁も利用するセキュリティ水準
- サポートはWebがメイン
- フリープラン(0円)ビジネスプラン(月額700円)エンタープライズプラン(月額1200円)
- 1ヶ月間の無料トライアルあり
機能と費用のバランスが良いビジネスチャットです。ビジネスチャットが初めてでも使いやすく、導入後の学習コストも低く抑えられるでしょう。
Chatwork公式サイト
https://go.chatwork.com/ja
世界的に広く使われている「Slack」
- 国際的な認知と豊富な導入実績を誇る中上級者向けビジネスチャット
- 社内外の関係者との共同作業がアプリ上で簡単に行えるプラットフォーム(連携可能なアプリが豊富)
- AI搭載で多機能かつ高性能
- 使いこなすには管理者やユーザーへの研修が必要
- サポートはWebがメインで動画は英語の場合が多い
- フリープラン(0円)プロプラン(月額1725円)ビジネスプラン(月額2800円)
- 無料トライアルなし
Slackは、OSを提供するMicrosoft社とは異なる独立系のアプリメーカーです。特定のメーカーや製品とバンドルのような形で結びついていないことから、連携できるアプリが非常に豊富なことが特徴といえます。スレッド形式やリアルタイムのコミュニケーション以上のことをビジネスチャットに求めたい場合には、十分に検討する価値があるといえるでしょう。
Slack公式サイト
https://slack.com/intl/ja-jp
MS系ソフトとの親和性が高い「MIcrosoft Teams」
- 世界各国の上場企業に導入されている中上級者向けビジネスチャット
- Slackと同様にTeams上で共同作業が完結するプラットフォーム(連携可能なアプリが豊富)
- 使いこなすには管理者やユーザーへの研修が必要
- サポートはWebと電話がメインで動画は日本語版がある
- 家庭向けプランと一般法人向けプラン、大企業向けプラン、教育機関向けプランがある
- 一般法人向けプラン Microsoft Teams Essentials(月額599円)、Microsoft 365 Business Basic(月額899円)Microsoft 365 Business Standard(月額1874円)
- 中小企業やに非営利団体でも無料版を利用できるが機能制限が多い
ExcelやWord、PowerPointといったOffice製品やOutlook(メールアプリ)、OneDrive(オンラインストレージ)、SharePoint(情報共有や共同作業)などとの連携が非常に簡単で、後々ほかのMS系アプリを含めて業務効率化を図りたいと考える場合には、最適といえるでしょう。
Microsoft Teams公式サイト
https://www.microsoft.com/ja-jp
なお、どの製品もプランによって利用できる機能やサポートの種類、優先順位に違いがあること、月払いよりも年払いのほうが割安なのは同じです。
無料版ビジネスチャット利用する際の注意点
今回取り上げたビジネスチャットには、いずれも無料版やフリープランがあります。導入や維持費用をできるだけ抑えたい中小企業にとっては、渡りに船といえるでしょう。しかし、無料版やフリープランを利用し続ける場合には、注意が必要です。
- フリープランには機能の制限がある
- フリープランの機能制限は状況に応じて変わる可能性がある
- 無料プランで乗り切りたいなら、定期的なバックアップが必要
基本的にフリープランは、有料プランや有料に移行してもらうためのお試しですので、利用できる機能に制限があります。また、制限の内容が変わることも決して珍しくありません。つねに改善ならば良いのですが、データ容量の上限が引き下げられたり、メッセージの保存期限が短くされたりすることもあります。
法人としてビジネスチャットを無料で使い続けることはおすすめしません。しかし、そうせざるを得ない場合には、定期的に重要な情報やファイル、データなどのバックアップを定期的に取ることをおすすめします。
自社ニーズに適した製品選びを
ビジネスチャットの導入が成功するかどうかのポイントは、自社ニーズに応じた製品選びができているかです。利用したい機能やユーザー数、費用に加えて、顧客や取引先が何を使っているか、社内のデジタルスキルレベルなどを検討した上で、ビジネスチャットの導入を検討しましょう。
また、どのビジネスチャットを導入するにしても、事前に整えておきたい準備があります。前回のコラムでは、担当者を決めたほうがDXの成果があがりやすいという指摘があったことを取り上げました。ビジネスチャットの管理者はもちろんのこと、必要に応じて周囲のサポートを担うリーダーを部署ごとなどに決めておきましょう。
まとめ
中小企業が業務効率化を図ろうとする際、比較的負担が少ないにもかかわらず効果を期待できるという点で、ビジネスチャットは優れています。業務見直しによくある課題の改善や解消に役立つだけではなく、業務効率化や生産性向上も見込めます。
何か新しいことに挑戦する際には、通常よりもたくさんのエネルギーが必要です。簡単ではありませんが、そんなときこそ経営者として果敢に挑戦する姿を見せましょう。挑戦しなければ、成功も失敗も起こりえません。