前回のコラムで、中小企業が導入したいビジネスチャットを4つ取り上げました。そこで今回は、ビジネスチャットを導入することで期待できる業務効率化やコスト削減といった具体的な効果を見ていきましょう。
目次
ビジネスチャットの機能を活かした業務効率化
ビジネスチャットは、チャットするためだけのツールではありません。活用の仕方によって、次のような効果が期待できます。
- コミュニケーションの活性化
- 情報の可視化と迅速な共有
- 情報の一元管理
- タスク管理やスケジュール管理の効率化
- 業務フローの簡素化
- リモートワークの促進
- コスト削減
ひとつずつ見ていきましょう。
コミュニケーションの活性化
前回のコラムで触れたように、チャットの特徴として、メールよりもスピーディーかつ気軽にやりとりできるという点が挙げられます。チャット(chat)とは、英語で「おしゃべり、雑談」という意味です。電話やメールよりも心理的なハードルが低いという点がポイントです。
気軽に話しかけたり雑談できる雰囲気があるかないかによって、社内コミュニケーションの取り方は大きく変わってきます。業務中の私語はなるべく控えるような雰囲気なのか、思ったことを気軽に口にできる雰囲気なのかとの間には、コミュニケーションを取ろうとするためのエネルギーに大きな差があるとお分かりいただけるでしょう。
HR総研の「『社内コミュニケーション』に関するアンケート2024」によると、次のことが指摘されています。
- 社員間のコミュニケーション不足は業務の障害になる
- 社内コミュニケーションに課題のない企業ほど、従業員エンゲージメントが高い
- 部門間や経営層と社員、部署長とメンバーとのコミュニケーションに課題がある
自社では、社内コミュニケーションが活発に行われていますでしょうか。社内コミュニケーションの活性化には、3つのアプローチがあるといわれています。
- 公式なコミュニケーション(対面):1on1や社員アンケート、管理職のコミュニケーション研修など
- 非公式なコミュニケーション(対面):カフェスペースの設置や業績または評価に影響しない社内イベントの実施など
- チャットによるコミュニケーション(非対面):チャットやWeb会議など
今回はビジネスチャットのコラムですので、対面でのコミュニケーションは割愛します。ビジネスチャットでは、部門間の壁を軽く超えることが可能です。チャット内でプロジェクトチームや課題解決のための検討グループなどを作成し、そのグループに参加させれば良いのです。
また、電話をかけたりメールを送ったりするほどではない相談や感謝を伝えたいといった非公式のコミュニケーションも促します。相手が在席していれば場所を選ぶことなくリアルタイムにコミュニケーションを図れるため、タイムリーに物事が進むでしょう。
ビジネスチャットが社内コミュニケーションを促せば、意思疎通のための時間短縮やトラブルの早期発見につながります。日ごろからコミュニケーションが活発にあれば、思いがけない良いアイデアの創出もしやすくなるでしょう。
情報の可視化と迅速な共有
中小企業では、ノウハウの属人化という課題もよく見られます。例えば、営業成績の良いAさんはいつも稼ぎ頭で、なかなかほかのメンバーが育たないといった状況です。このような場合、成果を上げているAさんのやり方を公開してもらう必要があります。これは、経営者が取り組まなければならない課題です。
営業などのノウハウは、基本的に個人に蓄積していくものです。しかし、自社商品やサービスと同様に、会社の財産でもあります。そういったノウハウを個人だけではなく、会社に蓄積させていく仕組み作りも非常に重要な経営課題です。
ビジネスチャットは、この点でも助けになります。
- 優秀な営業パーソンのコミュニケーションが可視化される
- 営業活動の進み方に沿った情報共有が可能になる
- 社内の動きも見える化される
営業職では、相手の要望に応じて柔軟に対応する必要に迫られることも少なくありません。自社商品やサービスに対して、見込み客からどのような質問や要望があり、それに対してどのような提案や対応をしたかは、営業の本質ともいえる部分でしょう。
企業規模によるものの、そういった営業活動のひとつひとつのアクションが、日々大量に送受信するメールや社員個人所有のチャットに残ってしまっていると、その人材がいなくなった瞬間にノウハウや履歴が見つけにくく、また失われてしまいかねません。
また、営業活動には、最初のアプローチから商品説明などの商談、クロージングといったプロセスがあります。どのようなタイミングでどのようなアプローチをしているのかが共有できれば、ほかの営業パーソンの参考や刺激にもなることでしょう。
例えば、契約獲得に向けてどれくらいの割引や特典、サービスを検討したか、その際に誰がどのタイミングで何を許可したかといった社内の動きが可視化されることによって、仕事の精度やスピードも上がるでしょう。
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情報の一元管理
電子化やIT化、デジタル化といった部分に課題を抱える中小企業も少なくありません。予算の関係で、部門や部署、機能ごとに段階的にシステムの導入を進めてきた場合などは特に、部門が情報を抱えてしまっていて、情報を全社共有できていないということがままあります。
例えば、製造業では、購買と出荷のシステムが異なり、データの互換性がなくそれぞれ独自にレポートを作成しているということも珍しくありません。このようなサイロ化はシステムの問題ですので、ビジネスチャットがサイロ化そのものを解消するわけではありません。
しかし、導入をきっかけに情報管理の運用や引いてはシステムを一新していく方針を打ち出すことは可能です。具体的には、情報の一元管理化だといえます。各部門が抱えていた情報を、共通のデータ形式で保存するように変更したり、全社共通のプラットフォームで稼働または連携できるシステムを導入すると良いでしょう。
そうすることで、各部門からデータを集めたり、いちいちデータを変換する手間を省いたりできます。過去の実績や課題の確認、業績の予測、利益率のシミュレーションといったデータ分析が格段にやりやすくなり、スピーディーかつデータに基づく経営判断ができるようになるのです。
業務フローの簡素化
これまで紙の書類で回していた稟議書をビジネスチャットでリアルタイムに共有できるよう電子化する、書類に電子印を使う、急ぐ場合には決裁者の押印を待つことなく「承認します」などのビジネスチャットへの一言で業務を進められるようにし、追って押印を求めるといった例は、業務フローの簡素化といえます。
- 決裁者の押印待ちで数日経過していないか
- 同じような手間や作業が起案者に生じていないか(所属長→部門長→役員)
- 業務マニュアル(手順書)を見直す
紙の書類に決裁者の押印が必要な場合、決裁者の外出や出張などで書類が数日進まないというのは、よくあることです。上司のデスクに置かれている押印待ちの書類を眺めた経験のある方は少なくないことでしょう。
起案者が書類を持って所属長のところへ行き、次は部門長のとこへ行き、最終的に役員や役員秘書のところへ行き、すべての捺印を得て書類を完成させるというのも、よく聞く話です。部署や部門が複数ある場合は、さらに待ち時間が増える傾向にあります。これも、ビジネスチャットで改善可能な簡素化の一例です。
前項でもお伝えしたように、ビジネスチャットの導入をきっかけに業務フローを見直しましょう。複雑な手続きや重複する作業がないか、無駄がないかを確認し、誰もが同じ手順で仕事を進められるよう業務マニュアルを整備しましょう。(業務フローの標準化)
業務フローの標準化ができれば、業務の属人化の抑制やスピードアップにつながります。社員によって業務の質やスピードは異なるかもしれませんが、誰もが一定のプロセスに沿って同じように仕事を進めることができるようになります。
タスク管理やスケジュール管理の効率化
ビジネスチャットを導入すると、タスク管理やスケジュール管理も簡単になります。コミュニケーションが可視化されるため、タスクの抜け漏れの確認が容易にできるだけでなく、取り組み忘れなどのうっかりミスを防止するからです。
多くのビジネスチャットには、送信したメッセージをタスク化する機能やタスクに期限を設定したり期限を知らせたりするリマインド機能が搭載されています。タスクの進捗がグループ内でオープンにされるため、各メンバーに「取り組まなければ」という良い意味での緊張感を生むでしょう。
上司にとっては、部下一人ひとりに個別に確認していた進捗や課題が可視化されますし、他のメンバーにとっては、同じような課題がどのように解決されたかをほかのメンバーの事例を通してリアルタイムで知れるだけではなく、参考にすることもできます。
タスクが完了したら上司またはメンバーが完了ボタンを押し、完了済みのタスクに分類されるかタスク一覧から消えるという形でタスクが完了します。ビジネスチャットによっては、「進行中」のようにステータスを表示できるものもあります。マネジメントや報告の工数を削減できるというメリットがあるといえるでしょう。
スケジュール管理も同様です。カレンダー機能が備わっている、または連携可能なビジネスチャットであれば、スケジュールが押さえられると同時にカレンダーに反映されます。会議などで新たにスケジュールを入れたい場合には、カレンダーを見て空き時間に入れるようにすれば問題ありません。従来のように、メールで何往復もしながら日時調整をする必要がなくなります。
ToDoリストや名刺管理などのアプリと連携させれば、より一層の業務効率化や生産性向上も実現可能でしょう。
リモートワーク(テレワーク)の促進
コロナ禍をきっかけとしたニューノーマルのひとつに挙げられていたのが、リモートワーク(テレワーク)です。毎日の出社を前提とした働き方ではなく、完全在宅勤務や定期的な出社をともなうハイブリッドワークという言葉も、この時期に認知が広まりました。
ビジネスチャットの特徴のひとつに、リアルタイムのコミュニケーションがあります。自宅や出先などでふと職場の人とコミュニケーションを取りたくなったとき、ビジネスチャットなら気軽にやり取りを始めることが可能です。必要に応じてWeb会議やビデオ通話も利用できるため、「職場とつながっている」という感覚をリモートワーカーに持ってもらいやすいといえるでしょう。
時間や場所を問わない柔軟な働き方は、人材確保や離職防止にも役立ちます。配偶者や家族の事情などから、勤務地や勤務時間に制約がある人にとって、リモートワークがその解決策のひとつとなりえるからです。
経営者応援コラムでも何度か取り上げたとおり、中小企業はいまだかつてない人材難に直面しています。優秀な人材確保のために、資金力のある大企業がこぞって大卒の初任給を引き上げたことも話題になりました。その一方で中小企業は、アットホームな職場環境や活躍できる場の提供、好きなことに取り組めるといった点が、就職希望者に評価されています。
内閣府の「令和4年版 高齢社会白書」によると、15~64歳までの日本の生産年齢人口は1995年にピークを迎え、そこからは減少し続けています。2020年には7,509万人と、ピーク時から15年間で1,207万人も減少しました。リモートワークをはじめとする柔軟な働き方の実現は、今後ますます重要性を増していくでしょう。
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コスト削減
ここまで見てきたように、ビジネスチャットの導入はコスト削減の効果が期待できます。4つの経営資源に沿って見ていきましょう。
- ヒト:業務効率化からくる残業時間削減(人件費削減)、ノウハウ共有による教育コストの削減など
- モノ:書類の電子化によるコストや保管スペースの削減
- カネ:チャットやWeb会議の実施による交通費や宿泊費、日当などの削減
- 情報:情報の一元化管理化や業務フロー簡素化による作業時間の削減
ここに挙げたのは、比較的わかりやすい直接的な効果です。しかし、業務効率化からくる無駄な作業の削減は、目には見えなくても心理的な負担を軽減するなどの効果もあるでしょう。こういったことが積み重なって、じわじわと効果を上げ、複合的に業務効率化やコスト削減、生産性向上へとつながっていくといえます。
まとめ
今回は、ビジネスチャットの導入による業務効率化やコスト削減についてお伝えしました。導入には利用料や運用コストがかかるため、どのようなことが期待できるのかを事前に知っておくのは大切です。
中小企業では、IT化やデータ活用に課題を抱えている場合が少なくありません。改善には、ビジネスチャットの導入が良いきっかけとなるでしょう。チャット以上の機能を持つビジネスチャットを導入し、生産性を向上させましょう。