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カスタマーエクスペリエンス(CX)向上の企業事例5選
カスタマーエクスペリエンスの重要性が叫ばれ始めたのは近年です。弊社は中小企業を中心に経営支援させていただいておりますので、そのような事例をご紹介したいと考えていました。しかし、現時点ではまだご紹介できる事例がない状況です。(いずれご紹介できるよう、現在支援中です!)そこで今回は、すぐに学ぶことができる大企業のものを中心に事例を5つ取り上げます。
・三井住友銀行様:「お客様満足(CX)向上にむけた取組」
・イーデザイン損保様:インシュアテックによる車載センサー搭載型の新保険商品
・ミツカン様:「MIZKAN MUSEUM(MIM)」によるお客様との接点づくり
・良品計画様:「無印良品」というブランドを支えるCX戦略
・レナード様:お客様の不満を探り感動体験につなげる活動
三井住友銀行様:お客様満足(CX)向上にむけた取組
三井住友銀行のホームページには、「お客様満足(CX)向上にむけた取組」というページがあります。明確にカスタマーエクスペリエンス向上を掲げ、具体的な取り組み内容やその成果としてどのようなことが改善されたのかを、誰もが確認可能です。
「難しい」「分かりにくい」「使い勝手が良くない」など、縦割り組織のマイナス面に注目が集まることの多かった銀行ですが、合併や再編を何度も繰り返し、いよいよ本格的にカスタマーエクスペリエンスに着手したなという印象を持っています。
「お客さま本位(CX)」という表現も使い、各種アンケート(紙)や電話、デジタルアンケートなどを用いてお客様の声を経営に反映する体制が、同行ではできています。改善例として挙げられているのは、以下のような事例です。
・磁気不良のICカード(キャッシュカード・デビットカード)の情報修復サービス
→新しいカードが届くまでの間、カードが使えないという不便をATMで解消
・SMBCダイレクトでの出入金照会期間を30年に
→Web通帳にしたくても明細を見られる期間が短いから切り替えられない
・店舗への来店予約サービスやビデオチャットによる接客の実施
→新型コロナウイルスへの感染が気になり、店舗に来店するかどうか迷う
同行のサイトには、お客様から寄せられた声の数やその内容、満足度、定期的にCX向上会議が開かれていることも示されています。お客様の声を冊子にまとめて社内で共有している点や接客マニュアルを公開している点も、情報が活用されているという信頼感を生むでしょう。
お客様が「自分の声は経営に活かされていると」実感できる情報をたくさん掲載している点が素晴らしいといえます。リアルとネットの両方で、このように丁寧に対応してもらえば、お客様の満足度は間違いなく上がっていくことでしょう。
https://www.smbc.co.jp/cs/
イーデザイン損保様:インシュアテックによる車載センサー搭載型の新保険商品
イーデザイン損保は、東京海上ホールディングス傘下の損害保険会社です。自動車保険で広く知られています。2021年11月、同社は車載センサー搭載を前提とした新保険商品を発売しました。
カスタマーエクスペリエンス向上という視点からすると、その特徴は2つだといえます。インシュアテックと呼ばれる、さまざまなテクノロジーを活用した保険商品だということと、「交通事故のない世界の実現」のため、同社が蓄積した膨大なデータを惜しみなく顧客に還元している点です。
顧客はスマートフォンにアプリをインストールし、手のひらサイズの車載センサーを車内に設置します。事故の報告はスマートフォンからタップひとつで可能です。車載センサーは、事故の際の位置情報や衝撃などの情報を検知し、事故の衝撃や事故前後の車のスピード、損傷の程度を動画で再現して送信する機能があります。事故受付担当者が事故状況を素早く把握することに役立ち、顧客の不安をいち早く軽減することが可能になります。
保険料を払っているのは万が一の事故に備えてという常識を、打ち破っているのも新保険商品の特徴です。これまでの事故のデータをもとに、安全運転ができているかを評価する運転スコア算出機能もあり、急ブレーキや急ハンドルなど、顧客が日ごろの自分の運転傾向を把握し改善できるようにしています。
究極的には自社の首を絞めかねない新保険商品です。この商品が売れれば売れるほど、事故は減るかもしれません。しかし、顧客が本当に求めているものを考えたとき、誰も事故を望んでいないという結論に達し、どうやったらそれを実現できるかを考えた末に決断したとのこと。
このサービスが広まった後には、個人ごとに異なる運転傾向に合わせた安全運転サポートなど、サブスクリプションサービスも検討しているそうです。これまでコールセンター中心だった事故受付をAIを活用したチャットへと変更し、情報の記録を簡単にしただけでなく運用コストを下げることにも成功しています。
一度利用してもらえればその価値がわかるという自信から、価格競争に陥りがちな保険商品であっても、この新保険商品は価格競争に応じないとしています。今後は既存顧客も徐々にこの商品に切り替え、自動車保険を一本化する予定とのことです。
https://www.edsp.co.jp/
ミツカン様:「MIZKAN MUSEUM(MIM)」によるお客様との接点づくり
ミツカンはお酢で知られる大手調味料・加工食品メーカーです。創業1804年という老舗で、本社は愛知県半田市にあります。そのミツカンが取り組んだカスタマーエクスペリエンスの向上とは、体験型博物館「MIZKAN MUSEUM」創設とオンラインで楽しめるデジタルミュージアムの開設といえるでしょう。
お酢は業務用と家庭用に分かれますが、いずれにしても店舗で販売される製品ということから、同社からすると、お客様との接点を直接持つことが難しいという特徴がありました。自社製品に自信を持って市場へ送り出しているものの、もっとリアルなお客様の声が聞きたい。
その思いからMIZKAN MUSEUM は2015年に創設されました。お酢づくりに対する思いや歴史、醸造技術、食文化の魅力を伝えることはもちろんのこと、自社製品に興味を持つお客様はどのような人なのかというデータを集める場所でもあります。
同社は来館者にアンケートを実施し、ようやく可視化されたお客様(アンケート回答者)に対してヒアリングやフォローアップをしています。これは、MIZKAN MUSEUMのホームページでも同じです。コロナ禍で思うようにミュージアムが開館できないことを受け、コンテンツの拡充とアクセス解析に注力しました。
サイト訪問者については、詳細なアクセス解析が可能です。お客様の声をリアルとネットの両方で直接吸い上げ、詳細な顧客像を掴んでカスタマーエクスペリエンス向上に取り組んでいるという事例です。
https://www.mizkan.co.jp/mim/about.html
良品計画様:「無印良品」というブランドを支えるCX戦略
無印良品といえば、誰もが知る生活全般にわたるアイテムを製造販売する良品計画のブランドです。しっかりと確立されたブランドイメージがあることに加え、MUJIという海外向けのブランドもあり、日本だけでなく世界にファンがいることで知られています。
良品計画は、ナチュラルでシンプルなデザインを基本とし、飽きずに長く使えるものを提供し続けていることが特徴です。それこそが、同社のカスタマーエクスペリエンス向上のための基本的な考え方(戦略)を表しているといえるでしょう。
無印良品がスタートしたのは1980年、“従来の商品の企画からすると少し外れてしまうような商品の企画からスタートした”と同社のホームページに書かれています。規格から外れることで価値が下がるものの、質的には変わらないものを商品化し、買い求めやすい価格で提供するというのが同社のカスタマーエクスペリエンス戦略といえます。
流行り廃れに左右されないデザイン、できる限り環境に良い素材選び、不必要な加工をしないなどのメッセージを顧客に発信し続けています。それを受け取った顧客は、無印良品の商品を選んで買い使うことで、そのブランドメッセージに共感していることを示し、無印良品というブランドの活動を支援しているという価値観を共有するのです。
この体験こそが無印良品の顧客が求める本質的なものといえるでしょう。購入する商品の良さはもちろんのこと、購入した商品を使うことで「自分は流行り廃れに乗らない」「地球環境に配慮した商品を使っている」などの主張をさりげなくすることに満足を感じているということです。
商品づくりに対する思いや考え方を積極的に発信し、商品の価値を上げることに成功しているカスタマーエクスペリエンス向上の事例といえます。
https://ryohin-keikaku.jp/about-muji/
レナードグループ様:お客様の不満を探り感動体験につなげる活動
レナードグループは、美容機器の製造販売やエステサロンの運営などをしています。エステサロンは、お客様に通い続けてもらうことが前提のビジネスモデルです。そのため、カスタマーエクスペリエンスの向上が売り上げに大きく影響するといえます。
エステサロンの課題は、期待以上のまたは価格以上のサービスを提供できているかに尽きるでしょう。サービス業の中でも美容サービス業は、お客様を非常に丁寧に接遇し、特別な時間を味わってもらうことがその本質にあります。
それがリアルであってもネットであっても、お客様にとっては同じことです。重要なのはその統一が取れていることだと、前回のコラムでお伝えしました。
お客様に満足していただけているかを知ろうとする際にポイントになるのは、お客様の本音を聞き出せているかです。サービス業では覆面調査(ミステリーショッパー)という方法で店舗運営を調査することがあります。お客様のふりをした調査員が、店舗や接客などをチェックし報告するという方法です。
覆面調査の利用や口コミサイトのチェックをしてみたものの、お客様の本音にたどり着けていないと感じた同社は、ホームページのアクセス解析を活用して、お客様が自社に対してどのような思いを抱いているのかを調査しました。
そこで見つかった課題と店舗の売り上げにと相関関係がある場合もあれば、ない場合もあるとのこと。課題が見つかった場合には、ひとつひとつ潰してゆき、ない場合には、店舗の清掃やスタッフの対応など、エステサロンとして基本的なことを見直します。そのようにして地道にカスタマーエクスペリエンスを向上させ、感動体験につなげているという事例です。
https://lenard.jp/
まとめ
中小企業経営者の皆様であれば、大企業が次から次へとカスタマーエクスペリエンスを担当する執行役員を任命したり、専門チームを立ち上げたりしていることをご存じでしょう。カスタマーエクスペリエンスの重要性は、それほどまでに増しているといえます。
お客様が購入するのは、モノ(製品や商品)ではなくコト(体験)へと変化しています。モノを手にするとしても、そこに見いだしているのはそれ自体が含む、またはそこから生み出される価値だといっても過言ではありません。その傾向はますます高まっていくことでしょう。
「存在しないものはない」といわれるほど、モノに溢れ市場が飽和している現状において、競合他社との違いを打ち出すには、今回ご紹介したような価値体験を顧客に対して用意できるかどうかが重要です。中小企業が学ぶべき点はそこにあるといえます。
業界や業種、取り扱う商品やサービスなどによって、どのようなこのことがカスタマーエクスペリエンス向上につながるのかは、異なるのが自然です。お客様をはじめとして、競合他社、時代の流れなど、考えるべきことは少なくありません。
その点についてご懸念をお持ちであれば、弊社に一度ご相談いただくという方法もございます。カスタマーエクスペリエンスを向上させ、貴社の事業の安定化を図りましょう。今後、中小企業においてカスタマーエクスペリエンス向上の事例が増え、早晩ご紹介できることを願っています。