身近になった生成AIとは?できること・できないことと活用上のリスク

ChatGPTの衝撃を覚えていらっしゃる方は少なくないでしょう。まるで人間を相手にしているかのような応答や回答スピードの速さ、回答の的確さなど、従来のAIとは一線を画すものです。今回は、ChatGPTをはじめとする生成AIにできることとできないことに加えて利用例をご紹介し、ビジネスに活用する上でのリスクや注意点についてお伝えします。

生成AIとは?

生成AI(または生成系AI)とは、大量のデータを学習することによって、新しいコンテンツを生成できるAI技術のことです。ジェネレーティブAI(Generative AI)とも呼ばれます。Generativeは英語で「生成できる、発生させることができる」という意味です。

AIの中でも比較的新しい ※1ディープラーニングという技術が使われています。学習したデータからパターンや構造を理解し、推論に基づいて新たなデータを生成できるのが特徴です。まるで人間が作ったかのようなクオリティのコンテンツを瞬時に生成します。では次に、生成AIがどのようなコンテンツを作り出せるのか見てみましょう。

※1:国土交通白書 2019 コラム 「人工知能(AI)」の歴史
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h30/hakusho/r01/html/n1122c01.html

生成AIにできること

生成AIは、作り出せるデータによって「テキスト(文章)」「音声」「画像」「動画」の大きく4種類に分かれます。それぞれの特徴と主なサービスには、次のようなものがあります。

テキスト生成AI

質問や指示などをテキスト(文章)で入力すると、その内容を分析してAIが適切な内容を生成するという対話型の生成AIです。プログラミングのようなコンピューター向けの言語ではなく、人間が日常的なコミュニケーションに使う自然言語で対話できることが大きな特徴といえます。

テキストを取り扱うため、その用途は幅広いです。文章の作成や見直し、修正はもちろんのこと、外国語に翻訳することも外国語で書かせることもできます。物語のような長文も生成可能です。学習したデータ内での調査はお手のものといえるでしょう。

  • 定型文をよく使う書類の作成
  • メールなどの文章チェック
  • 長文の要約
  • 競合他社の商品・サービス調査
  • 外国語への翻訳 など

代表的なサービスには、次のようなものがあります。

  • ChatGPT(OpenAI社)
  • Bing AI(Microsoft社)
  • Bard(Google社)
  • LlaMa(Meta社)

テキスト生成AIでは、やはりChatGPTが一歩リードしているのではないでしょうか。2022年11月にChatGPTの日本語版が公開されてから、国内で話題になるまでにそう時間はかかりませんでした。その認知度の高さやユーザー数の多さから、生成AIの代表選手といえるでしょう。

音声生成AI

人の声を合成音声で生成するのが、音声生成AIです。テキストの読み上げをはじめとして、ボーカロイドの楽曲などでご存じの方もいらっしゃるでしょう。実は、日常生活でよく使われている技術です。

  • 音声案内(公共交通機関、信号、留守番電話など)
  • コールセンターの自動応答
  • スマートスピーカー
  • 動画のナレーション
  • 音声データの文字起こしや音声入力 など

具体的なサービスには、次のようなものがあります。

この中でも特に、VALL-Eは学習に必要な音声データが3秒と短いにもかかわらず、人間の声に非常に近いとされています。感情の表現ができるとされていますし、日本語の文章を英語に変換して読み上げるなどの他言語への変換にも対応可能です。

画像生成AI

画像生成AIは、画像のイメージをテキスト(言葉)入力し、そこから自動的に画像を生成する技術です。例えば、「ボールを追いかける犬」と入力すると、ボールを追う犬のイメージが生成されます。イラストやアニメ調、3Dなど、サービスによって生成できるものは異なります。

また、同じ画像生成AIでも、テキストからイメージを起こすのではなく、画像を加工するタイプのものもあります。こちらの場合は、1枚の画像から明るさやエフェクトを変えた何パターンもの画像が生成可能です。

例えば、プレゼンテーションや自社サイトに画像やイラストなどをよく使う場合などには、便利です。具体的には、以下のような用途に使うとよいでしょう。

  • 印刷物やプレゼンテーションに使う素材(画像やイラストなど)
  • 自社Webサイトに使用する素材
  • 広告やバナー、SNS用の素材
  • 商品画像の加工 など
  • デザイン案の作成

代表的なサービスには、次のようなものがあります。

画像生成AIには、著作権を気にすることなく商用利用できるサービスとそうでないものとがあります。サービス提供会社が定める利用上のルールをよく確認してください。

動画生成

動画生成AIでは、テキストや画像などの情報を入力することで新しい動画の生成が可能です。自分のデジタルアバターを使って動画を作れるサービスもあります。画像生成AIと同様に動画の生成ではなく、編集を効率化するものもあります。

ただし、テキストや音声、画像生成AIと比べると精度が低めで、人間の手による編集がまだまだ必要とされているともいわれています。その点が改善されていけば、商品紹介やプロモーション用の動画、初めての方向けのオリエンテーションやチュートリアルなどに活用していけるようになるでしょう。

注目されているサービスには、次のようなものがあります。

  • 動画生成:Gen-2 Motion Brush(Runway社)
  • アバターを使用した動画生成:Spritme (Sprit Me社)
  • 動画編集:Vrew (VoyagerX社)

動画生成AIは、現時点ではベータ版やスタートアップ企業による開発途上のものも少なくありませんので、今後に期待しましょう。

生成AIにできないこと

これまでは生成AIにできることを見てきました。そこで、ここでは生成AIにできないことを確認しておきましょう。

  • 人間からの働きかけ(インプット)がなければ生成できない
  • 学習したデータの範囲内でしか生成できない

当たり前かもしれませんが、生成AIは人間からの働きかけがなければ何も生成しません。テキストや画像などのインプットを受けて生成を始めます。また、学習したデータには含まれないものを生成することもできません。学習データを基盤として、インプットされたデータから類推した結果を返して(生成して)いるのです。

顧客の要望を察して適切な提案をしたり、相手の興味や感情など心の動きに沿ったコンテンツをリアルタイムで返したりすることもできないでしょう。いわゆるひらめきや直感のように無関係なことをつなぎ合わせたり、融合させたりすることも理論上無理だと考えられます。つまり、思考しないということです。

しかし、学習したデータを元に求められたものを返す、網羅的に抜け漏れなく情報を拾ってくるなどいった点やそのスピードにおいては、人間よりもはるかに優秀なのかもしれません。

生成AIをビジネスに活用する上でのリスク

業務効率化やクリエイティブなコンテンツの制作を助けるなど、生成AIは非常に便利ですが、活用する上で知っておきたいリスクがあります。ここで、取り上げおきましょう。

生成AI活用上のリスク

  • ディープフェイクによる騒動や炎上のリスク
  • 著作権や肖像権を侵害するリスク
  • 情報漏洩のリスク
  • 生成サービスが終了するリスク

ディープフェイクによる騒動や炎上のリスク

ディープフェイクとは、本物に限りなく近い偽物のことで、「ディープラーニング」と「フェイク」を掛け合わせて作られた造語です。それができる生成AIを悪用されると、本物を騙ることも人をだますこともできてしまいます。

2022年9月に、ドローンで撮影した静岡の水害被害を伝える画像※2が、物議を醸すしたことを覚えていらっしゃるでしょうか。本人がすぐに画像生成AIで作った画像だと打ち明けて謝罪したことから、大きな騒動にこそならなかったものの、ニュースにはなりました。

2023年11月には岸田首相のディープフェイク動画※3がSNSに投稿され、マスメディアを巻き込む騒動となりました。こちらも本人は悪意がなかったとし、謝罪かつ動画を削除しています。比較的わかりやすいケースとはいえ、身に覚えのない言動を画像や動画で投稿されてしまったら、本当だと信じる人が出てきてもおかしくはありません。

誤解を防ぐためには、生成AIに作らせたということをしっかりと明記しておくべきでしょう。

※2:2022年09月27日 ITmedia NEWS 
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2209/27/news124.html

※3:2023年11月4日 NHK
https://mdpr.jp/news/detail/4035245

著作権や肖像権を侵害するリスク

著作権や肖像権といった法律で保護されている権利を侵害してしまうリスクもあります。生成AIに作らせたものが実在の人物や作品に酷似しているにもかかわらず、その知名度や影響力を利用しようとしている場合には、著作者人格権やパブリシティ権に抵触する恐れがあります。

情報漏洩のリスク

生成AIの学習にはデータが欠かせません。そこに社内の機密情報や取引先と共有している情報、顧客の個人情報などを含めることの是非も問われています。社内で自主的にガイドラインを作り、運用しておくことをおすすめします。

前項の著作権・肖像権と同様に、法律の整備が待たれる状況では何ともいえない部分がありますが、少なくとも生成AIのアウトプットが他人に損害を与えないようにする注意や配慮が必要だといえるでしょう。

生成サービスが終了するリスク

自社が利用していたサービスが終了してしまうリスクがあることも、考慮しておきましょう。生成AIは始まったばかりだといえます。今後どのようなサービスが生み出されるか分かりませんし、既存のサービスが今後も継続しているか分かりません。新しい技術の中でも、何がスタンダードになるかは、時のみぞ知るといったところではないでしょうか。

このような点を踏まえて、生成AIをビジネスに活用する際には、以下のような注意が必要だといえるでしょう。

生成AIを活用する上で注意が必要なこと

  • 学習したデータに偽りや誇張が含まれている可能性がある(つねに人間が真偽を確認)
  • 生成AIが作ったものに対する責任の所在

生成AIの学習には大量のデータが必要です。しかし、学習データの中には故意ではないとしても偽りや誇張、極端に古いものが含まれていないとは限りません。特に、テキスト生成AIのアウトプットには、つねに人間によるファクトチェックが不可欠と考えましょう。画像や動画では、特定の人物や作品と誤解されないよう注意が必要です。

例え生成AIが作り出したものだとしても、現在の法律では誰かが責任を取らなければならないとされています。もし生成AIのアウトプットを活用する場合には、生成AIによるものだということを明示しておくことがトラブル回避につながるといえるでしょう。

今後、法律が改正されていく可能性はありますが、生成AIを活用したいと考えている場合には、どのようなリスクがあるのか、どのような注意が必要なのかを知っておくべきだといえます。

まとめ

すでに使ったことがある方にはお分かりいただけると思いますが、生成AIは非常に便利です。業務効率を格段にアップしたり、コンテンツ作成のコストを大幅に圧縮したりするなど、人手や資金不足に直面する中小企業にとっては大きなメリットがあります。

その一方で、活用するためには知っておかなければならないリスクや注意点があることも忘れないでください。まずは、生成AIにできることとできないことを含めた概要や特徴を知り、使ってみるところから始めてみましょう。

本コラムでご紹介したように、生成AIという名称がこのように流通する前から、自動音声案内やチャットボットのように、AI技術はどんどん日常生活に活用されています。本当に避けなければならないのは、生成AIは自社には関係ないと考えて過ごしているうちに、いつの間にか周囲から取り残されてしまったという事態を招くことではないでしょうか。

この記事を書いた人

吉野 太佳子代表取締役|中小企業診断士 , MBA , 上級ウェブ解析士 , Google アナリティクス認定資格

Webブランディングの専門家として、中小企業・小規模事業者さまをご支援させていただきます。

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