「デザイン経営」が宣言された理由と導入する企業が成長する仕組み

日本の産業競争力を向上させるために特許庁が推進している「デザイン経営」をご存知でしょうか。デザイン経営は、大企業よりもむしろ中小企業のほうが成果を上げやすい活動です。今回は、デザイン経営の意味やデザイン経営が必要とされる理由、具体的な取り組み、デザイン経営の導入モデルについてお伝えします。

「デザイン経営」とは?

デザイン経営とは、デザインの力を経営に活用する手法のことです。具体的には、ブランドの構築やイノベーションの創出にデザインの考え方を応用し、企業価値を高める活動を指します。

デザイン経営を推進する特許庁によると、デザインの力とは「その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すこと」です。

デザインの力とは具体的に何を指すのでしょうか。その話に進む前に、今、なぜデザイン経営が重要なのか、デザイン経営の導入が推進されるようになったのかという背景についてお伝えします。

なぜデザイン経営なのか?その理由と重要性

2018年5月、経産省の外局のひとつである特許庁が『「デザイン経営」宣言』をしました。それは、2017年7月、有識者によって発足した「産業競争力とデザインを考える研究会」によって、これからの日本の産業競争力を向上させるために必要なのは何かという議論をまとめたものです。

日本の経済成長が長く横ばいを続けていることは、経営者の方に改めて申し上げるまでもないでしょう。その原因のひとつとされているのが、国際的な産業競争力の低下です。その産業競争力の低下を打開する手法として期待され、成果を上げ始めているのがデザイン経営です。

デザインへの投資がパフォーマンスの高さや成長率につながっているという報告もあります。前述の『「デザイン経営」宣言』では、デザインに投資をした結果、利益が4倍になったという事例や株価が2倍になった事例などが挙げられ、デザインを強化したことで高い競争力を維持していることが示されています。

例えば、GoogleやAmazon、Apple、Disney、NIKE、adidasなど、ブランドイメージが浸透している競争力の高い外国企業はたくさんあります。日本企業でも、ユニクロや無印良品、日清食品、ソニー、トヨタ、ニトリなどには、いいイメージがあるのではないでしょうか。

このように、ブランドイメージの向上やイノベーションの創出にデザインの力を活用する必要があるのは、大企業ばかりではありません。中小企業には中小企業の強みがあります。それを知り、デザイン経営に活かしていただきたいのです。そうすれば、市場で競争優位性につなげることができます。

では次に、デザイン経営を導入するための具体的な取り組みをご紹介します。しかし、その前に、もうひとつだけ触れておきたいことがあります。それは、デザインとは何かという本質的な問いです。

デザインの本質とは?

デザインとは何かということを理解しておくことは、デザイン経営を導入する上で非常に重要といえます。デザインに対する理解の深さが、デザイン経営を成功させることができるかどうかのカギを握っているからです。

デザインについては、「見た目をよくする」「全体のバランスを取る」「体裁を整える」と理解されている経営者の方が、少なからずいらっしゃいます。決して間違いではありませんが、それはデザインというプロセスの一部分です。表面的または表層的な部分ともいえるでしょう。

デザイナーの仕事とは?

デザイナーの仕事は、まだ明らかになっていないニーズや潜在的な欲求を発見し、言葉にできないような感情や思考をすくい上げ、それを目に見える形にすることだといえます。つまり、情報やデータなど、見える形になる前のニーズをいち早くとらえていることがポイントです。

話をデザインの本質に戻しましょう。デザインは、出来上がった商品やサービスをユーザーに届ける際にわかりやすくする役割を果たすのではなく、また、よくある自社技術の高さや商品・サービスの希少性などから出発するのでもありません。あくまでも、ユーザーにとっての価値を出発点とし、求められる商品やサービスを具現化しようとすることだといえます。

実現性やコスト、採算などの現実的な要素を積み上げるのではなく、起点とするのはユーザーが望む価値の創出です。ユーザーにとっての課題を発見し、その解決方法(=商品やサービス)の仮説を立て、それが正しいかどうか検証するというプロセスを積み重ねて、商品やサービスを作り出すことそのものだといってもいいでしょう。

その点において、パッケージデザインやプロダクトデザインという限定されたものとは異なります。デザイン経営では、ユーザーにとっての価値の創造活動をデザインと呼んでいます。経済的な価値はもちろんのこと、現代では社会課題への貢献度の高さや地球環境への配慮も高い付加価値になりえるでしょう。

では、次に、特許庁が発行した「みんなのデザイン経営」から、具体的にどのような取り組みをすればデザイン経営を導入することができるのか見てみましょう。

「みんなのデザイン経営」による9つのデザイン経営の入り口

みんなのデザイン経営では、デザイン経営の入り口を9つ設けています。どの入り口から入っても間違いではありません。自社課題の解決につながる入り口を選ぶことがすすめられています。もちろん複数の入り口からアプローチすることも可能です。

なお、9つの入り口は、3つに分類されています。Part1~3までありますが、これは順番ではありません。

・Part1:会社の人格形成 意思と情熱を持つ(Mission)
歴史や強みを棚卸しする(Identity)
未来を妄想する(Vision)

・Part2:企業文化の醸成 社員の行動変容を促す(Behavior)
社内外の仲間を巻き込む(Collaboration)
魅力ある物語を発信する(Storytelling)

・Part3:価値の創造 人を観察・洞察する(Insight)
実験と失敗を繰り返す(Prototyping)
心をつかむモノ・サービスをつくる(Execution)

出典:「みんなのデザイン経営」(特許庁)
https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/document/design_keiei/chusho-handbook.pdf

Part1:会社の人格形成

会社の人格形成では、自社の得意分野や実績を振り返り、自社の強みや市場での立ち位置を再認識します。どのような商品やサービスを作りたいのか考えるところから始めてもいいでしょう。新しい価値の創造を実現するという目標に向かう意思や情熱を確認することや、その雰囲気を作ることも欠かせません。

Part2:企業文化の醸成

企業文化の醸成は、どのような企業でありたいかを設定することだと言い換えられます。例えば、デザイン経営を導入することは、デザイナーと協力することになるでしょうし、社員にデザイナーのノウハウという新しい文化に慣れてもらうことにほかなりません。自社商品やサービスを開発、発売するまでのストーリーやブランドイメージを発信して価値を知ってもらうことも大切です。

Part3:価値の創造

ユーザーにとっての価値を作り出すためには、まずその価値を求めるターゲットを設定する必要があります。ターゲットを設定する際には、人の観察や洞察が欠かせません。自社の商品やサービスを求めていなければ、そもそも対象にならないからです。

ターゲットにとっての課題は何か、その課題を解決するための商品やサービスのどのような要素に価値を感じるのかを仮定、調査し、ある程度の失敗を許容しながら商品化していくというプロセスから始めてもいいでしょう。これまで自社では取り組んだことのない新商品のアイデアを募集するという方法もあります。

今できることからすぐに始めることができるのは、デザイン経営の優れた点です。社内にデザイナーがいれば望ましいですが、外部の力を借りることも考えましょう。

デザイン経営の導入モデル

デザイン経営は、9つの入り口をどのように組み合わせるかで、自社の課題解決に必要な展開を作り出すこともできます。紹介されている3つの例から考えてみましょう。

・販路が広がらない
・下請けから抜け出せない
・優秀な人材が採れない

・販路が広がらない

販路が広がらない場合には、次の4つの入り口から取り組むことがすすめられています。

・歴史や強みを棚卸しする/会社の人格形成
・魅力ある物語を発信する/企業文化の醸成
・人を観察・洞察する/価値の創造
・心をつかむモノ・サービスをつくる/価値の創造

販路が広がらないという課題は、往々にして商品やサービス、または自社の強みが伝わっていないということから起こります。それは、顧客だけではなく従業員にとっても同じことで、自社の特徴を十分に認識していないことからくることもあります。

また、商品やサービスの売れ行きが落ちたということもあるでしょう。この場合、ニーズに合わなくなってきている可能性があります。

そこで、歴史や強みを棚卸しし、魅力ある物語を自社ホームページや広告に掲載、発信するという入り口が見えてきます。ニーズにマッチしなくなっている場合には、リサーチでニーズを確認し、商品やサービスを改良・改善するという入り口へと進みましょう。

・下請けから抜け出せない

・意思と情熱を持つ/会社の人格形成
・未来を妄想する/会社の人格形成
・社内外の仲間を巻き込む/企業文化の醸成
・実践と失敗を繰り返す/価値の創造

下請けから抜け出せないという課題は、自社独自の製品がないことや挑戦を避けることなどが原因だと考えられます。

5年後や10年後に、どのようになっていたいのかを考えてみましょう。会社の主軸となる新製品が飛ぶように売れていることを想像してもいいでしょう。そのためには、今何が必要で、何をしなければならないか、そうなりたいと願う未来から今へと逆算して考えます。

新しいプロジェクトを立ち上げて、社内から人材を公募するとこはできるはずです。技術面で協力し合えるパートナー企業を探してもいいでしょう。挑戦しないということは、失敗すらしないということです。失敗という経験は、成功への一歩であり、成功の確率を高める貴重なデータになります。

・優秀な人材が採れない

・意思と情熱を持つ/会社の人格形成
・歴史や強みを棚卸しする/会社の人格形成
・未来を妄想する/会社の人格形成
・社員の行動変容を促す/企業文化の醸成

優秀な人材が採れない場合、やはり自社や自社商品・サービスの魅力が十分に伝わっていない可能性が高いです。また、よくあるのが「ウチみたいな会社には…」というような諦めの意識が根づいてしまっていることもあります。

このような場合、優秀な人材に来てもらえないという認識を改めなければなりません。歴史や強みを棚卸しし、情報を整理した上で、優秀な人材と出会えるまで探し続けましょう。求める人材がいそうな場所へと出向くなり、自社ホームページ内にある採用ページに掲載するコンテンツを拡充させましょう。

採用の方法についても、従来のものに加えて新たなツールを使ってみるという方法もあります。インターネットやスマートフォンがかなり普及していますから、SNSや動画でアピールすることは決して無駄ではありません。

ここに挙げた例を含め、デザイン経営を導入し、会社全体に浸透させるには、相応の時間や労力が必要です。トップの考えが伝わりやすく、意思統一が図りやすい、そして決断や行動、修正のスピードが速い中小企業だからこそ導入の効果も出やすいのです。

一度効果を感じることができれば、やる気がアップし、好循環に入りやすくなります。ブランドイメージやイノベーションは大企業のものではありません。中小企業こそ、事業成長のためにデザインの力を活用しましょう。デザイン経営の認知度がまだ高くない今は、チャンスです。

まとめ

みんなのデザイン経営には次のような一文があります。『「デザイン経営」を実行するためにはトップの決断が重要だが、成果を上げるためには社員一人ひとりの意識改革が欠かせない』と。このことは、社員との意思統一や経営者の意思が浸透しやすい中小企業にとって大きなアドバンテージです。この点を存分に活かしましょう。

また、経営者は企業そのもののデザイン担当ともいわれます。企業経営に必要な資源として、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つが挙げられますが、これからは、そこに「デザイン」という新しい資源が加わるかもしれません。4つの経営資源とそれを活用して企業価値を高めるデザイン力という関係です。

今回ご紹介したように、デザイン経営には9つのアプローチがあります。どの入り口から入っても、デザイン経営を始めることが可能です。中小企業ならではのアドバンテージを活かして、デザイン経営を始めてみましょう。

この記事を書いた人

吉野 太佳子代表取締役|中小企業診断士 , MBA,上級ウェブ解析士

Webブランディングの専門家として、中小企業・小規模事業者さまをご支援させていただきます。

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