最近、経営者向けにDXのセミナーに登壇させていただいておりますが、2022年版の中小企業白書でも、デジタルリテラシーについて触れています。
中小企業にとって厳しい状況が続く中、デジタル化やデジタルリテラシーの向上が事業経営に与える効果を見てみましょう。その上で、経営者にとって重要なデジタルリテラシーとは何かについて考えてみます。
目次
中小企業白書に見る中小企業成長のカギ
2022年4月26日、「2022年版 中小企業白書」(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/press/2022/04/20220426003/20220426003.html)(以下、白書とする)が発表されました。白書によると、コロナ禍の影響により、中小企業は今も厳しい状況にあるとしています。この点は、改めてお伝えするまでもないでしょう。
注目したいのは、それに続く内容です。このような状況にありながらも、生き残りをかけて何とか成長しようとしている中小企業があり、成長を望む事業者にとって必要なことは「自己変革」だと述べています
自己変革とは、現状維持に満足せず、時代や環境などの変化に応じて変わっていこうとすることそのものです。今の時代、顧客のニーズやテクノロジーが10年後も全く同じとは限りません。むしろ、少しずつ変わっていくと考えるほうが自然だといえます。
そこで、事業再構築という自己変革に取り組んだ企業が感じたその効果について見てみましょう。
事業再構築に取り組んだ企業が感じている効果
白書の中では、事業再構築に取り組んだ企業で、売上面での効果があったと感じている企業の割合が34.9%(n=648)だとしています。1年または数年以内に効果が出る見込みとしている企業の割合を合計すると、96.0%です。
効果が出る見込みは薄いと回答した企業は3.7%で、既に撤退している0.3%との合計は4.0%と低いことがわかります。事業再構築に早くから取り組んだ企業ほど、売上面での実感が高いことも合わせて指摘されていることがポイントです。
また、その効果が売上面だけでなく、既存事業や従業員へも現れているともしています。具体的には、既存事業とのシナジー効果(38.5%)や従業員の意欲・能力向上(26.7%)、技術力・製品開発力の向上(22.5%)、知名度向上(9.9%)です。
次に、事業再構築の成功事例を見てみましょう。
事業再構築に取り組んだ企業の成功事例
成功事例として挙げられているのは、温泉旅館です。旅館は通常「泊まりに行く」場所ですが、その概念を覆し、サテライトオフィスとして営業を開始。「通う旅館」へと変革を試み、入居企業を得ました。入居を決めた企業は、おそらく通勤費用や時間、労力の低減に加えて、温泉旅館という福利厚生に魅力を感じたことが理由でしょう。
重要なのは、旅館によくある季節の影響だけでなく、コロナ禍のような災害レベルのことがあっても影響の少ない毎月の収入を得たことです。1泊2日という利益率が低く、かつ季節性に左右されるビジネスモデルから脱却したことが、事業安定化に大きく寄与したといえます。
今回の白書では、従来のビジネスモデルや過去の成功体験にとらわれることなく、柔軟にビジネスの再構築をした結果、売上以上の成果を上げている企業があると述べています。
次に、白書に示されている自己変革の2つの方向性をご紹介しましょう。
中小企業が取り組むべき自己変革の2つの方向性
白書では、自己変革には2つの方向性があるとしています。
・スケールアップ型:中小企業が中堅企業を目指す
・パワーアップ型:小規模事業者が事業を見直し、持続的成長を目指す
スケールアップ型とは、「中堅企業への成長やサプライチェーンの中核的存在を目指す中小企業」が、パワーアップ型とは、「持続的成長を志向し、地域経済を支える小規模事業者」が、新しい挑戦を行うことです。
では、それぞれ具体的にどのようなことをすればよいのかを見てみましょう。
スケールアップ型
スケールアップ型では、中小企業が中堅企業へと成長することを目指します。成長の方法として挙げられているのは、ブランド価値の向上とスキルアップの2つです。
■ブランド価値の向上
企業の成長を促す方法のひとつとして挙げられているのが、無形資産への投資です。有形資産への投資よりも効果的という分析があることから、注目されています。
無形資産とは、物質的な実体を持たない資産のことです。例えば、特許や商標、著作物などの知的財産、事業にとって有用な知識や技能、ノウハウ、経営手法、広くは企業文化なども含まれます。経営者応援コラムでもよく取り上げているブランドイメージも、そのひとつといえます。
白書では、ブランド構築やブランドイメージの維持に取り組む企業は、ブランドの価値が商品やサービスの価格に影響すると感じる割合が高いと指摘しています。つまり、ブランド価値が商品やサービスの価値を高めているということです。
具体的には、ブランドコンセプトの明確化や社内外へのブランドメッセージの発信、従業員へのブランドコンセプト浸透などが行われています。既存のブランドコンセプトの見直しや社名、ロゴの刷新、商品パッケージのリニューアルなどによって、ブランドを強化し価値を高めます。
■スキルアップ
計画的に従業員にスキルアップの機会を設けることも、事業の成長に対して効果的だとしています。従業員の仕事に対する意欲を向上させるからです。中小企業にとって、人材という経営資源をどのように活用できるかは、業績拡大に欠かせません。
コロナ禍や競合他社の動きなど、市場に内外から影響を及ぼすさまざまな要因に負けることなく、学ぶことで活路を見出していくことだともいえます。資金繰りが厳しい中での研修実施に、経営者の方が躊躇するのはよくわかりますが、そのような方こそ、今回の白書をご覧になってはいかがでしょうか。
前述したブランドの構築やブランドイメージの維持向上には、自社ホームページやSNS、動画などでの情報発信に加えて、広告宣伝も欠かせません。アプリを活用する方法もあります。Webマーケティングを含むデジタルマーケティングや、スマートフォン、タブレット、PCといったデジタルデバイスの利用状況に応じた対策も不可欠です。
ブランド価値の向上を支えるのが計画的なスキルアップ、スキルアップをするとさらブランド価値の向上が見込めるという、スパイラルを描く関係にあるといえるでしょう。
パワーアップ型
パワーアップ型では、地域社会の中で持続的に成長していくことを目指します。事業見直しの戦略として小規模事業者にもっとも多く選ばれていたのが、市場浸透でした。既存顧客に対して、既存商品やサービスの販売を強化するという考え方です。
市場浸透で行われている取り組みは、既存商品やサービスの情報発信強化が約41%ともっとも多く、クオリティ向上が約40%と続きます。購入数や利用数を増やす工夫は約35%でした。では、その施策がどれくらい効果的だったのかについては、残念ながら白書で明らかにされていません。しかし、ほかの事業者との共同開発で新規顧客や取引先を得たケースがあると報告されています。
既存顧客への販売強化を狙いながらも、知識やノウハウの不足や販売先の開拓・確保、人材の確保などの課題に直面しているという現状が浮き彫りになったといえるでしょう。
中小企業にとってのブランド価値向上や従業員のスキルアップ、小規模事業者にとっての事業見直し時の課題(既存顧客との関係性強化を望みつつも知識・ノウハウ・人材不足)には、ひとつの共通点があると考えます。それが、経営者のデジタルリテラシーです。
自己変革に欠かせない経営者のデジタルリテラシー
ここでいう経営者のデジタルリテラシーとは、デジタルデバイスや新しいネットサービスに詳しいということではありません。PCやタブレット、スマートフォンをインターネット環境で使いこなす知識やスキルもデジタルリテラシーに含まれます。しかし、経営者にとって重要なのは、事業に必要なデジタル活用のあり方を描くことができているかです。
デジタルリテラシーとは?
デジタルリテラシーを理解するには、リテラシーとは何かを知っておく必要があります。リテラシー(Literacy)は英語で、読み書きができることや特定の分野の知識・能力を指します。頭にITがつけばIT(Information Technology)「情報技術」の、デジタルや情報がつけば、デジタルや情報利活用の知識や能力を意味します。
近年よく見聞きするようになったデジタルリテラシーとは、ビッグデータやIoT、デジタルサイネージなどを含むその広範さが特徴です。インターネットとそこに接続するデバイスという、振り返ってみればシンプルなネットワークから大きく発展してきた、デジタルで取り扱うデータをすべて含むといえます。
データを取得するデバイスの種類も把握しておくことが必要です。何度かお伝えしていますが、デジタルデバイスの主役はもはやPCではなくスマートフォンという時代になりました。データを保存しておくにはハードディスクやUSB、DVDなどの外部メディアが必要でしたが、今は数多くのクラウドサービスがあります。
デジタルデバイスをどれだけ使えているかということに加えて、このようなデジタル環境の変化を知っておくことも、デジタルリテラシーといえます。では、経営者にとって重要なデジタルリテラシーとは何かを考えてみましょう。
経営者にとって必要なデジタルリテラシーとは?
経営者は、このような基本的なデジタルリテラシーに加えて、それをどのように経営に活かすかという視点を持っていなければなりません。それは、デジタルの最先端に誰よりも詳しくなることでもありません。経営に必要なデジタルの知識やスキルがあればよいのです。
弊社では、デジタルスキル
デジタルデバイスの操作が可能
さまざまなデジタルツールを利活用できる
デジタル導入のベネフィットや未対応のリスクに対応できる
PCやスマートフォンなど、デジタルデバイスの基本的な操作や利活用については、有償無償のさまざまな講座があるでしょう。経営者として重要なのは、リスクマネジメントです。デジタル化に対応しないことでどのようなリスクがあると認識しているのか、それを踏まえて、今後どのようにデジタルを取り入れていくのかを描けているかだといえます。
今回取り上げた白書では、事業方針におけるデジタル化の優先順位が年々高まっていることを明らかにしています。コロナ禍に見舞われ、デジタル化の優先順位が高いと考える企業の割合は40%から60%へと、20%以上も増加しました。
つまり、小規模事業者を含む中小企業の半数以上がデジタル化の重要性を認識している状況にあります。このようなときこそ、リスク回避のためにデジタルリテラシーの底上げを図らなければなりません。まずは経営者自身が学ぶ姿を見せることで、または従業員とともに学ぶことで、デジタルリテラシーを着実に向上させていくことが重要です。
新聞や雑誌という従来のメディアをはじめとして、新聞社や出版社などによるインターネットサイトから情報を得ることができます。今の時代は動画で学ぶことも可能です。現状のレベルに合わせて進めていくことが重要ですから、苦手意識がある方は、学ぶ仲間を作ることから始めてもよいかもしれません。
まとめ
デジタル化やデジタルリテラシーの必要性は、ますます高まっているといえます。特に経営者が事業のリスクを考える上で、経営者自身のデジタルリテラシーは重要です。
白書では、中小企業の成長のカギはスケールアップ型またはパワーアップ型にあるとしています。いずれにせよ、自己変革を必要としますので、経営者の方には事業成長のため自己変革を求めていただきたいと思います。
そのために欠かせないのが、デジタルリテラシーの向上です。まずは経営者である自分自身に、デジタル化が遅れることのリスクとこれからの時代に不可欠なデジタル活用が描けているかを問いかけてみてください。
現状維持のまま、何も変えずに成長を望むのは、かなり難しいといえるでしょう。成長は自己変革の先にあると理解し、できるだけ早く自己変革をスタートしていただきたいと思います。