DX認定制度とは?制度概要と創設の背景、取得のメリットを解説

DX認定制度とは、2020年11月にスタートしたDXへの取り組みを国が認定する制度です。課題も多く、なかなか進まないDXの現状を改善する目的で創設されました。今回は、DX認定制度の概要と創設の背景、取得のメリットについてお伝えします。

DX認定制度とは?

DX認定制度とは、DX(Digital Transformation(読み方:デジタルトランスフォーメーション))について優良な取り組みを行っている事業者を、申請に基づいて経済産業省が認定する仕組みです。実際の申請受付や問い合わせ、審査などの業務は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA(Information-Technology Promotion Agency))が行います。

(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-nintei/dx-nintei.html)より引用

審査基準となるのは、2020年5月15日に施行された「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」を受けて、2020年11月9日に発表された「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応しているかどうかです。

DX認定制度の基準となる「デジタルガバナンス・コード」

デジタルガバナンス・コードには、デジタル技術を活用して顧客や社会のニーズの激しい変化に対応し、これからの社会に必要となる企業活動をしていくにあたって求められる変革が具体的にまとめられています。

大きな柱となるのは6項目で、「経営ビジョン・ビジネスモデル」「戦略」「組織・人材・企業文化に関する方策」「ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策」「成果と重要な成果指標」「ガバナンスシステム」です。経営と事業、技術、人材・組織をカバーしていますので、この6つの柱はデジタル技術を活用する経営そのものだといえます。

DXによくある誤解

ここで、もう一度お伝えしておきたいのは、DXは紙文書の電子化や新しいシステムの導入、人間とプログラムやAIとの置き換えではないということです。経済産業省のサイトで公開されている資料には、DXが次のように説明されています。

「DX認定制度の概要および申請のポイントについて」(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-nintei/0806_dx-certification_point.pdf)

  • デジタル技術をつかって
  • つながり方を変えて
  • 本当にやりたかったことをやる

つまり、経営戦略とデジタル戦略は一体で、ITやシステム部門、デジタルが得意な人に任せておけばよいという話ではないことを意味します。また、ユーザー視点で新しい価値を提供することだとも書かれ、自社商品やサービスが顧客にとってどのような価値を持つのかという視点を忘れてはならないと伝えています。

DX認定制度の概要

少々前置きが長くなってしまいましたが、DX認定制度の概要は次のとおりです。

  • 名称:DX認定制度
  • 認定者:経済産業省
  • 審査機関:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
  • 申請:通年可能
  • 申請手数料:なし(申請そのものや認定の維持にかかる費用はなし)
  • 認定までの期間:申請日から約3~4ヶ月間
  • 対象:すべての事業者(企業規模は問われない)
  • 有効期限:2年間

大企業だけではなく、中小企業や個人事業主を含む小規模事業者まで、すべての事業者が対象です。公益法人やNPOも含まれます。2022年8月1日時点で、認定を受けているのは約470社です。2020年11月にスタートしてから、2021年には219件、2022年はこの約半年間で244件となっています。

DX認定事業者の一覧や認定済みの申請書は、次のサイトで確認可能です。

DX推進ポータル「DX認定制度 認定事業者の一覧」
https://disclosure.dx-portal.ipa.go.jp/p/dxcp/top

DX認定制度の申請方法

DX認定制度を利用するには、「DX推進ポータル」の利用登録が必要です。DX推進ポータルとは、IPAが運営するDXに関する各種サービス提供サイトをさします。gBizIDと呼ばれるサービス利用に必要なアカウントを作成するところから始めましょう。

なお、gBizIDとは、DX推進ポータルだけではなく、省庁や自治体の行政サービスを利用できるようになる共通のIDです。利用できるサービスは順次拡大されていく予定ですので、この機会に行政サービス利用手続きの効率化をおすすめします。

DX推進ポータルでの申請までの流れは、以下のとおりです。

  • gBizIDの取得
  • 申請書のダウンロードと作成
  • DX推進ポータル内「DX認定制度」から申請
  • IPAによる審査
  • 認定(認定事業者一覧への掲載と申請書の公開)

申請に必要な書類は「認定申請書」と「申請チェックシート」の2つです。DX推進ポータルからアップロードします。審査の結果は、IPAからメールで通知されます。

DX推進ポータル
https://dx-portal.ipa.go.jp/i/signin/top?d=%2Fu

DX認定制度が創設された背景

ここで、DX認定制度が創設された背景について考えてみましょう。近年、国を挙げてDXを推進していることはご存じでしょう。その理由は、日本企業の競争力の確立です。日本企業の国際的な競争力の低下や経済成長率の低迷は、お伝えするまでもないでしょう。

身近なところでは、ビッグ・テックやビッグ・ファイブとも呼ばれるGAFAM(Google、 Amazon、 Facebook、 Apple、 Microsoftの頭文字をそれぞれ取ったもの。読み方は「ガ―ファム」)が、日常生活の中にどれだけ浸透しているかを見まわすことで、改めて認識していただけることでしょう。

遅れているDXを加速させる狙いの認定制度

実際のところ、DXに対する取り組みの進捗はどうなっているかを見てみましょう。2020年に行われたIPAの調査によって実態が浮き彫りになっています。同調査では、305社がDX推進指標の自己診断をした結果がまとめました。

「DX 推進指標 自己診断結果 分析レポート(2020 年版)」(IPA)(https://www.ipa.go.jp/files/000091505.pdf)

「DX未着手」と回答した企業は全体の30.5%、「全体戦略が明確でない中、部門単位での施行・実施にとどまっている」が38.0%、「全社戦略に基づく一部の部門での推進」が23.0%です。「全社戦略に基づく部門横断的推進」は7.9%、「全社戦略に基づく持続的実施」などは0.7%と、全社的な取り組みがなされている企業は8.6%という結果となっています。

必要性を理解しているものの、なかなか進められないというDXの課題に取り組みやすくするためでもあり、また進捗を可視化できる仕組みがDX認定制度だといえるでしょう。そこで、次に、DX認定制度で認定を受けるメリットを見てみましょう。

DX認定制度の4つのメリット

DX認定制度によって認定を受けると、DX認定のロゴマークを使えるようになり、認定事業者としてIPAのサイトで公表されます。それに加えて、DX認定制度には、以下4つのメリットがあるといえます。

  • DXを進める際の自社課題が整理できる
  • DX注目企業・DX銘柄の応募資格が得られる
  • 中小企業は融資で優遇される
  • 企業価値やイメージの向上

DXを進める際の自社課題を整理できる

DXがなかなか進まない理由のひとつに、おそらくですが、「何をどこから始めたらいいかわからない」という声があると考えられます。DX認定を受けるには申請書を作成しなければなりませんが、その申請書作成そのものが、冒頭で触れたデジタルガバナンス・コードに対応しているため、自ずと何に取り組まなければならないかが整理されるという流れになっています。

デジタルガバナンス・コードDX認定制度の申請書
「経営ビジョン・ビジネスモデル」(1) 企業経営の方向性および情報処理技術の活用の方向性の決定
「戦略」(2) 企業経営および情報処理技術の活用の具体的な方策(戦略)の決定
「組織・人材・企業文化に関する方策」(2) ① 戦略を効果的に進めるための体制の提示
「ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策」(2) ② 最新の情報処理技術を活用するための環境整備の具体的方策の提示
「成果と重要な成果指標」(3) 戦略の達成状況に係る指標の決定
「ガバナンスシステム」(4) 実務執行総括責任者による効果的な戦略の推進等を図るために必要な情報発信 (5) 実務執行総括責任者が主導的な役割を果たすことによる、事業者が利用する情報処理システムにおける課題の把握 (6) サイバーセキュリティに関する対策の的確な策定および実施
「DX認定制度 申請要項(申請のガイダンス)」(IPA)(https://www.ipa.go.jp/files/000086670.pdf)をもとに作成

 

中小企業は融資で優遇される

中小企業は、融資で優遇措置を受けられるようになります。日本政策金融公庫から基準よりも低い利率で融資が受けられるほか、中小企業信用保険の特例が認められます。民間金融機関から情報システムを戦略的に利用するための設備投資に必要な資金の融資を受ける際には、信用保証の追加や拡大が可能です。

また、DX投資促進税制もあります。部門別のDXではなく全社的なDXを実現するために必要とされるクラウド技術などのデジタル関連投資について、追加の認定を受ければ、税額控除(5%または3%)もしくは30%の特別償却が可能です。

DX銘柄やDX注目企業に選定される条件を満たす

DX注目企業またはDX銘柄に選定されることを目指している場合、DX認定を受けることで、選定の条件を満たせます。DX銘柄とDX注目企業は、いずれも経済産業省と情報処理推進機構および東京証券取引所及が共同で選定します。DX銘柄は注目されますし、DX注目企業として取り上げられることでも、果敢に挑戦する姿勢が評価されていることが伝わります。

企業価値やイメージの向上

DX認定を受けることで、社会的な課題に果敢に挑戦していると示せます。顧客や社会のニーズの変化を恐れず、積極的かつ柔軟に対応していくという経営姿勢は、顧客や取引先だけではなく、従業員や地域社会に魅力と映ることでしょう。企業としての価値やイメージ、信用を高めているといえます。

4段階あるDX認定制度の全体像

今回取り上げたDX認定制度は、実はDXの最初の一歩です。認定されるのは、DXの準備が整っていること(DX-Ready=DX認定事業者)で、全4段階のうちの1段階といえます。後々にはDX-Excellent企業などが選ばれる予定だと、すでに発表されています。

4段階あるDX認定制度の全体像

DX認定時郷社で融資や税制上の優遇がありますので、その上の段階に達したときに、どのようなメリットを享受できるのでしょうか。現時点では、DX銘柄やDX注目企業が選定され、選定された企業の価値や社会的信用を高めることに貢献しているといえるでしょう。今後、さらなるメリットが追加されれば、DX認定を受ける事業者がいっそう増えるかもしれません。

まとめ

ときに遅々として進まないDXに頭を抱える経営者の方は少なくないでしょう。少々耳に痛いお話かもしれませんが、何から始めていいかわからないということや自分は取り組もうと思っているのに回りがついてこないなどの場合、様子見をしていればいいということではありません。

DX認定制度を説明する資料の中には「経営者の決断」「経営者の積極性(主体性)」「経営者のリーダーシップ」という言葉が散見されます。経営や事業で何かを変えようとする際、少なからず抵抗があるのは当然のことでしょう。従業員や関係者の中には、おそらく変化を望まない人も一定数数いるはずです。

その一方で、ご紹介したメリットもあります。まだあまり知られておらず、DX認定事業者数もそう多くない中で、今は先行企業になれるチャンスだともいえるでしょう。難しい状況が続く昨今、リスクを取るのは勇気がいるかもしれませんが、まず必要なのは経営者としての決断ではないでしょうか。

DX認定制度を利用すれば、自社が取り組むべき課題が見えてきます。この制度を上手に活用して、DXを推し進めるきっかけとしてください。

この記事を書いた人

吉野 太佳子代表取締役|中小企業診断士 , MBA , 上級ウェブ解析士 , Google アナリティクス認定資格

Webブランディングの専門家として、中小企業・小規模事業者さまをご支援させていただきます。

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