事業展開等リスキリング支援コースの4月改正と中小企業こそ助成金利用を

以前のコラムで、事業展開等リスキリング支援コースが創設されたことをお伝えしました。慢性的な人手不足に悩まされることの多い中小企業にとって、人材確保や人材育成は、非常に大切な経営課題だといえます。今回は、リスキリング支援コースの4月の改正のポイントとリスキリング支援コースが中小企業こそ利用するべき助成金であることを、改めてお伝えしていきます。

事業展開等リスキリング支援コースの4月改正内容

人材開発支援助成金に新設された事業展開等リスキリング支援コース(以下、リスキリング支援コース)が、この4月に改訂されました。様式名称などの変更をはじめとして、確認しておきたい変更点が4つあります。

  • 受講回数の上限設定
  • 研修費用が助成対象外となる場合
  • 計画になかった研修を追加する場合
  • 様式と提出書類の変更

ひとつずつ見ていきましょう。

受講回数の上限設定

  • 同じ年度内に同一の従業員が受けられる研修は3回まで

これまでは受講回数の上限について、はっきりと書かれていませんでしたが、4月の改正で新しく制限が設けられました。この場合の年度は、4月1日から翌年3月31日までという区切りになっています。3回を超えないように注意が必要です。

研修費用が助成対象外となる場合

  • 研修費用を全額支払った後に、一部でも返金があった場合、研修費用全額が助成対象外となる

助成を受ける前提で、研修費用を全額支払っておきながら、一部または全額返金されるケースは、大きく2つのパターンに分かれるといっていいでしょう。やむを得ないケースか不正受給かが考えられます。これは、キャンセルや値引きに対応したものでしょう。

助成金を受けようとする企業が一旦研修費用を全額支払ったものの、何らかの理由でキャンセルせざるを得なくなり全額返金を受けるというのは、理解できます。しかし、一部返金というのは、処理ミスという可能性もなくはないでしょうが、実質的な値引きとして払い戻し(返金)が行われたとみなされても仕方ないでしょう。

年間計画になかった研修を追加する場合

  • 年間計画になかった研修を追加する場合、変更届ではなく計画届を提出する

これまでは、一度提出した年間計画届に書かれていない研修を追加する場合、その都度変更届を提出していました。しかし、4月の改正で、年間計画に対して変更を加えるのではなく、研修のたびに計画届を提出するようになりました。

様式と提出書類の変更

  • 計画届(名称変更)
  • 事業所確認票(提出できる書類の変更)

計画届は、「人材開発支援助成金 訓練実施計画届・年間職業能力開発計画(様式第1号)」から「職業訓練実施計画届(様式第1-1号)」へと名前が変わりました。名前だけではなく、使い方も変わったことについては、計画を追加する場合のところでお伝えしたとおりです。

事業所確認票は、事業の概要を伝えるために必要な書類です。これまでは、事業所確認票の代わりとして会社案内やパンフレットが認められていましたが、この2つが削除されました。今後は、会社案内などではなく必ず事業所確認票を提出することになります。

このほかにも、様式番号の変更や枝番の追加など、細かな変更点があるのですが、助成金の利用を検討している経営者の方にとって、重要度はあまり高くないのではないかと考え、割愛させていただきました。

なお、変更点の詳細については、厚生労働省の人材開発支援助成金を紹介するページをご確認ください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html#1001

中小企業こそ活用するべきリスキリング支援コース

ここで一旦、リスキリング支援コースの概要を振り返っておきましょう。中小企業がリスキリング支援コースを活用するポイントもご紹介します。

中小企業への助成率・助成額の高さ

そもそもリスキリング支援コースが創設されたのは、政府が構造的な賃上げや持続可能な発展などを実現させるため、成長分野への投資を促したいという背景があります。それを受けて、事業と関連のあるスキルを従業員に学ばせる事業者を支援するというのが、この助成金の目的です。

発表当時、予算規模の大きさが注目されましたが、中小企業経営者の方にお伝えしたいのは、中小企業に対する助成率・助成額の高さです。もう一度確認してみましょう。カッコ内は、大企業など中小企業でない場合の助成率・助成額を表します。

  • 経費助成:75%(60%)
  • 賃金助成:1時間1人あたり960円(480円)
  • 経費助成限度額:50万円(30万円)受講200時間以上の場合
  • 賃金助成限度額:1200時間
  • 支給限度額:1年度1事業所あたり1億円

次に、どのような事業が助成対象となるか見てみましょう。リスキリング支援コースには、助成対象となる事業が3つあります。「事業展開」「デジタル・DX化」と「グリーン・カーボンニュートラル化」です。

事業展開に該当するケース

https://www.gov-online.go.jp/pr/media/radio/sc/text/20230226.html

  • 新たな製品やサービスを開発し新分野に進出すること
  • 事業や業種の転換
  • 既存事業の中で製品の製造方法やサービスの提供方法を変更すること

新製品や新サービスの開発や事業・業種の転換は、確かに事業展開という言葉のイメージにふさわしいといえるでしょう。ここで強調したいのは、製品の製造方法やサービスの提供方法を変更するのも事業展開にあたるということです。

  • 既存製品のターゲットを変更するため、その業界の専門知識を学ばせる
  • 設計に3Dプリンターを導入し、その使い方を学習させる
  • 既存サービスをオンラインで提供するのに必要なスキル など

中小企業にリスキリング支援コースをおすすめするのは、上記のような事業展開の予定がなくとも助成金の支給対象となるからです。その代表といえるのは、デジタル・DX化でしょう。

事業展開の予定がなくても利用できるデジタル・DX化

  • デジタル技術を活用した業務効率化
  • デジタル技術を活用した製品・サービス・ビジネスモデルの変革

デジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを変革するのはもちろんのこと、業務効率化を図るのであっても、リスキリング支援コースの利用が可能です。具体例を見てみましょう。

  • 経理処理のシステム化に必要な知識やスキルを学ばせる
  • ITツールを活用したWeb集客のノウハウを習得させる
  • アプリ開発のためのプログラミングを学習させる など

弊社がリスキリング支援コースを何度も取り上げるのは、支給対象となる事業が幅広いことに加えて、中小企業への助成額・助成率も高い助成金だからです。ぜひ、ご活用ください。

なお、リスキリング支援コースを含む人材開発支援助成金は、電子申請できるようになりました。こちらは人材開発支援助成金の5月改正で決まったことですので、併せてお伝えします。

雇用関係助成金ポータルで助成金の申請が可能に!

この6月から、雇用関係助成金ポータルでの電子申請が本格的に始まりました。書類作成そのものだけではなく、申請にも時間や大変な労力が必要でしたが、それが大きく改善されることになります。

雇用関係助成金ポータルとは?

雇用関係助成金ポータルとは、厚生労働省の雇用関係助成金の電子申請ができるWebサイトです。2023年4月から運用が始まっていましたが、電子申請できる助成金は一部のものに限られていました。

この5月の改正を受けて、電子申請できる助成金が拡大され、人材開発支援助成金の電子申請が6月から可能になったところです。電子申請ができるようになると、経営者の方にとっては大きな負担減となるでしょう。

  • 書類提出のための移動時間や待ち時間を削減
  • 入力作業の負担軽減
  • 窓口が閉まっていていも申請や申請状況の確認が可能

助成金申請の大きな負担のひとつは、労働局やハローワークへ出向くことだったのではないでしょうか。思いのほか混雑している場合などは特に、呼ばれるまでの待ち時間が惜しいと感じた方も少なくないはずです。

雇用関係助成金ポータルでは、一度入力した情報の一部を自動的にほかの欄に反映させることができます。会社名や住所、電話番号など、繰り返し同じ情報を入力しないで済むのも負担の軽減につながります。

窓口が開いている時間に足を運ぶことなく申請や申請状況の確認ができるのも、大変便利な機能です。申請する経営者側だけではなく、受理する労働局側にとっても、負担減となります。

雇用関係助成金ポータルでできること

  • 申請の状況確認
  • 助成金の申請
  • 助成金を探す

助成金の申請では、自社による申請はもちろんのこと、社労士による代理申請も受け付けています。申請後の状況確認も可能ですので、気になるときにはいつでも確認できるという点も、Webサイトならではの良さといえるでしょう。

助成金の概要が紹介され、詳細情報や必要書類へのリンクも貼られています。助成金を利用する目的や対象者、キーワードなどで検索することもできるようになっていますので、ぜひ一度ご覧になってみてください。

雇用関係助成金ポータル

https://www.esop.mhlw.go.jp/

まとめ

4月の改正で、リスキリング支援コースにはいくつかの制限が加わりました。しかし、それでも中小企業への助成率や助成額の高さ、事業展開が適用される事業の幅広さ、デジタル技術を活用した業務効率化も助成対象となることなどを考えると、中小企業こそ活用するべき助成金だといえます。

6月からは、雇用関係助成金ポータルでリスキリング支援コースの電子申請が可能となり、申請もしやすくなりました。ここまでお膳立てがととのっているのですから、あとは行動あるのみではないでしょうか。

ご参考)助成金申請のポイント

ご参考情報として、弊社には、教育研修事業を取り扱うグループ会社があります。株式会社アイクラウドです。同社は、デジタル人材の育成に特化した企業研修が得意です。今回新設されたリスキリング支援コースにふさわしい研修や講座を数多くご用意しています。

加えて、助成金申請のポイントも紹介していますので、ご覧ください。

リスキリング支援コース|作成書類と申請の流れ・3つのポイントについて

この記事を書いた人

吉野 太佳子代表取締役|中小企業診断士 , MBA , 上級ウェブ解析士 , Google アナリティクス認定資格

Webブランディングの専門家として、中小企業・小規模事業者さまをご支援させていただきます。

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