美容サービス業がECサイト(物販)で成功する大前提とは?BCPから学ぶ店舗対面型サービスのリスク分散について

前回のコラムで、店舗対面型サービスの代表格ともいえる美容サービス業がコロナ禍に対応するためには、ECサイトによる物販が重要だとお伝えしました。しかし、それには見落としてはならない前提条件があります。今回は、このような緊急事態に対応するための大前提ともいえるリスク分散について、BCPの観点からお伝えします。

美容サービス業がECサイト(物販)で成功するための前提条件


美容室やエステサロン、リラクゼーションサロンなどの美容サービス業は、対面(密接)でなければサービス提供をできない店舗対面型サービスです。人が対面で向き合い、人と触れ合うこが基本になるビジネスといえます。設備や使用する商品の関係から、飲食店のようにデリバリーという手法は通用しません。

そうした中でも物販を行うことにより事業継続の可能性を高めたい気持ちは痛いほどわかります。「では、すぐにECサイトを立ち上げましょう!」とECサイトの立ち上げを支援する立場としては、そうした助言を行いたいという気持ちもあります。しかし、それにはお金も時間も必要です。

それに加えてお伝えしておきたいのが、このような緊急事態に対応するための大前提ともいえることです。ECサイトを立ち上げることを視野に入れているならなおさら、改めて確認しておいていただきたいのが顧客との関係性です。

コロナ禍の前から顧客との関係性はあったはずです。これまでサービス提供をしてきた既存顧客との関係性はどうでしたか。そして、今はどうでしょうか。

誰もがこのような形で経済的な打撃を受けることなど予想していなかったでしょうが、万が一に備えておくことも経営者として考えておかなければならないことのひとつといえます。

美容業界や美容サービス業こそ参考にしたいBCP


BCPをご存知でしょうか。BCPとは、Business Continuity Planningの略で、事業継続計画をさします。災害や事故などがあっても、事業を長期間中断することなく継続させるために策定しておく計画で、経営戦略のひとつでもあり、緊急事態発生時の対応方針でもあるといえるでしょう。

美容サービス業ではあまり身近に感じられないかもしれませんが、そもそも日本は地震やゲリラ豪雨などの自然災害が多く、同じ美容でも美容に必要な機器やケア用品などの消耗品を作る美容製造業にとっては大きな脅威といえるでしょう。

お客様の美容に対する意識の高まりや求められるサービスの多様化または相互乗り入れなどから、美容サービス業においては、業界の売上が近年拡大してきました。その一方で、店舗やサービスは飽和状態にあり、技術やトレンド、人材の入れ替わりも早く、競争が激しくなっていることは否めません。それに加えてこのコロナ禍です。

だからこそ、いつ起こるかもしれない不測の事態への備えとして欠かせないのがBCPといえます。災害や事故、業界や自社経営上に思いもよらない事態が起こったとしても、事業継続性を保てる企業であるために必要なものです。

大手企業では対応済みのところが多いですが、中小企業においては、このコロナ禍で初めて真剣に向き合うという経営者の方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、今からでも遅くはありませんし、気づいたときに対応を始めることが大切です。

BCPから考える重要なリスクマネジメント「リスク分散」


BCPは、大きな意味でのリスクマネジメントだと考えています。その中でも美容サービス業の経営者の方にお伝えしたいのは、リスク分散です。BCPのリスクマネジメント手法には2種類ありますが、リスク分散(1)を中心に見ていきましょう。

(1)経営を迅速に復旧させる体制づくり(「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」)
(2)緊急時に発動する本部機能の整備と情報共有、発信

経営の4要素から、それぞれ具体的に見てみましょう。

・ヒト:緊急時に出勤できる人員(または代替要員)の確保や育成、出勤できない従業員の措置
・モノ:店舗や設備の代替確保、補強や固定など被害軽減策、商品や消耗品など代替仕入先の確保または仕入先の分散化、代替品の選定
・カネ:売上が見込めない期間に必要な支払いや復旧に必要な費用の確保
・情報:重要な情報のバックアップ

この(1)より前に必要とされるのが(2)です。

・緊急時の対策本部と指揮命令系統の確立、被害の確認、従業員の安否確認、従業員との情報共有、対外的な情報発信

人が人に対面で提供する美容サービスでは、ヒトが非常に重要な役割を果たすからこそ、いつ何時サービスが提供できなくなってもおかしくありません。そのようなリスクが常につきまとうことを想定し、日頃から事業を進めているかどうかが経営のポイントです。

仮にBCPを念入りに用意していたとしても、もうひとつ決して忘れてはならないことがあります。それはお客様です。

本当に大切なのは、顧客との信頼関係が構築できているかではないでしょうか。自社に期待を寄せ、楽しみに待っていてくださるお客様がいれば、このような非常事態に直面しても対処していく力が湧くのではないでしょうか。

ご参考)
・中小企業BCP策定運用指針
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/index.html
・事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(令和3年4月)
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/keizoku/pdf/guideline202104.pdf

まとめ


月並みな表現ですが、災害はいつやってくるかわかりません。だからこそ、BCPの考え方を取り入れてリスク分散をしておくことが重要です。それに加えて、美容サービス業は技術やトレンド、人材の入れ替わりが激しい世界でもあります。

お客様との信頼関係を築きつつ、どのように事業を行っていくか。今からでも決して遅くはありませんので、事業の特性を今一度理解し、実際にどのような取り組みを行うかを経営者として考えていただけましたら幸いです。

次回は、このように厳しい美容サービス業において常にリスクに備えてきた事業者をご紹介します。この状況にあっても、全国からお客様が訪問するという極めて稀な事例です。

この記事を書いた人

吉野 太佳子代表取締役|中小企業診断士 , MBA,上級ウェブ解析士

Webブランディングの専門家として、中小企業・小規模事業者さまをご支援させていただきます。

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