【連続コラム後編】コロナ禍における新商品開発事例 乳がん経験者が乳がん経験者のために開発した下着

前回のコラムでは、新商品開発の基本的な考え方(戦略)についてお伝えしました。連続コラムの後編となる今回は、コロナ禍での新商品開発の事例を実名でご紹介します。取り上げさせていただくのは、乳がん経験者による乳がん経験者のための下着開発です。開発までの経緯や開発に活かされた強み、どのような戦略に基づいているのかについて、前回の「アンゾフの事業拡大(成長)マトリクス」を踏まえて見ていきましょう。

乳がんの経験がきっかけとなった乳がん経験者向けの下着開発


まずは事業者様のご紹介をさせてください。弊社が長く支援させていただいている下着屋Clove(クローブ)様(代表:ボーマン三枝様)です。

詳細はClove様のホームページにお譲りしますが、タイトルにもあるように、代表のボーマン様はご自身が31歳、結婚3か月目というタイミングで乳がんを告知されました。その経験から、乳がん経験者の方のための下着を企画および販売されています。

通常であれば、女性にとって乳房を失ったことは隠しておきたいに違いありません。手術後も日常生活は続きますから、いつどのような場面で乳房がないことに気づかれるかという心配もあるでしょう。若さから妊娠できるかどうか不安でしょうし、今後再発しないと約束されているわけでもありません。

そのような状況にありながらも、「同じ経験をしたほかの方のお役に立つなら」と、勇気をもってご自身のお名前を公表されています。事業はもちろんのこと、若年性のがん患者の方をサポートする活動をとおして、がんと向き合う方を励まし続けていらっしゃることには心を動かされます。

新商品開発における下着屋Clove様の大きな2つの強み


このような活動を展開されているClove様ですので、強みはたくさんあります。その中でもお伝えしたいのは、次の2点です。

・代表ボーマン様の高い志
・AYACan‼での活動

ボーマン様の志の高さには、2つの理由があります。ひとつは、大手メーカーが居並ぶ市場に弱小ながら参入されたこと、もうひとつはAYA世代(15~39歳ごろまでの青年および若年成人層)でがんに罹患された方へのサポート活動をされていることです。ひとつずつご説明します。

「乳がん下着」や「乳がんブラ」で検索をすると、この市場にはすでに大手メーカーが数多く参入しています。名だたる大手がひしめき合う市場に、ご自身の経験を携えたった一人で参入する意思は、もはや使命感といえるでしょう。

乳がんを経験したからこそ分かる「本当に欲しかった下着」には、機能面だけでなくデザイン面におよぶ細やかな気遣いがたくさん盛り込まれています。縫製をどうするかという課題がありましたが、ボーマン様を応援したいというメーカー様が、小ロットからの製造を引き受けてくださることで解決されました。

次に、AYACan‼での活動です。AYACan‼は、AYA世代(15歳~39歳ごろまで)にがんに罹患された方をサポートするグループで、ボーマン様はその代表として会をけん引されています。若年性がん経験者同士でのおしゃべり会や勉強会などのイベントを、オンライン、オフラインで開催、がんとともに生きるための知恵や仲間を得て、誰もが主体性を持ち楽しく幸せに生きることを目指す活動です。

ご自身が経験された苦悩や孤独でほかの若年性がん患者の方が苦しまないようにするための活動は、多くのファンを生み出しています。率直に申し上げると、Clove様の事業規模は非常に小さいです。しかし、そのことに関係なく、精力的に活動されるボーマン様のブレない芯の強さそのものも、大きな強みとなっています。

既存市場×既存製品を経て新規製品(新商品開発)へと進出


さて、ここからが新商品開発の考え方(戦略)です。今回Clove様は、新商品として乳がん用肌着のペアショーツと子宮頸がんの方の尿もれショーツを開発されています。前回のコラム(連続コラム前編)で見たマトリクスに当てはめてみましょう。

・乳がん用肌着のペアショーツ 第1事象:市場浸透(既存市場×既存製品)
・子宮頸がんの方の尿もれショーツ 第2事象:新製品開発(既存市場×新規製品)

ペアショーツは、これまで下着を販売してきたお客様(既存市場)をターゲットとしています。すでに購入していただいた下着と上下のペアで着用するショーツを開発することにより、既存市場での売上拡大につなげる考えです。

子宮頸がんの方の尿漏れショーツは、若年性がんという共通点(既存市場)を持つ方に対する新規製品の提案です。女性の若年性がんを軸とし、子宮頸がんによる後遺症の尿もれに悩む方の力になりたいという思いで新商品の開発を進めていらっしゃいます。

どちらも自社の強みを十分に活かして考えられた施策ですし、何よりお客様のことを第一に考えられています。まだ開発中ですが、その段階から期待と注目が集まっています。

まとめ


今回は、Clove様の新商品開発の事例を見てまいりました。既存市場(乳がん経験者向け下着)に既存製品(ペアショーツ)と新規製品(子宮頸がん≒若年性がん経験者の方の尿もれショーツ)を投入するという、コロナ禍におけるモデルケースともいえる戦略です。

自社の強みがよく分からない、どのように戦略を考えていったらいいかわからないという中小企業経営者の方は、よろしければ一度ご相談ください。客観的な視点からアドバイスさせていただきます。

下着屋Clove様
https://shitagiyaclove.com/

若年性がんサポートグループAYACan‼様
https://ayacan.org/

この記事を書いた人

吉野 太佳子代表取締役|中小企業診断士 , MBA,上級ウェブ解析士

Webブランディングの専門家として、中小企業・小規模事業者さまをご支援させていただきます。

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